5.女性蔑視

エピソード文字数 1,559文字

『コヘレト』第7章26節

わたしは、女が死よりも苦々しいものだと悟った。

女は罠であり、その心は網、その手は枷である。

神に喜ばれる者は女から逃れるが、罪人は女に捕らえられる。

『コヘレト』第7章28節

わたしはなおも探し求めているが見出さない。

千人のうちに、一人の男を見出したが、

すべての女のうちに、一人の女も見出せなかった。

女が「苦々しい」だなどと、唐突に失礼ですわ。
コヘレトは女性を下に見る差別主義者でしたのね。
素直に読めばそう受け取るよね。

20世紀フィンランドの司祭アーレ・ラウハは、コヘレトにとって女は妖婦だと考えた。

「すべての女のうちに、一人の女も見出せなかった」

これなんかも、非の打ちどころもない女はいないという風に解釈する。

コヘレトは女嫌いやったんか?

実はそうとも言い切れない。

『コヘレト』第9章9節で「あなたは愛する妻とともに楽しめ。」と言っている。

そんな表現をする人が「女嫌い」と言うのも不自然だ。

それで東京神学大学教授の小友聡(おともさとし)は、この箇所を「引用」だと言う。

ここでの会話は彼の論文に沿ったものであることを白状しておこう。

(『コヘレトにおける「謎解き」 : 7章23-29節の解釈をめぐって』参照)

引用?

つまり、この女性蔑視的な言葉はそもそもコヘレトのものではない、と?

ドイツの神父ノルベルト・ローフィンクはそう解釈した。

まず「女が死よりも苦々しい」と訳される箇所は、「女は死よりも強い」と読んだ。

これを女性の不死性を示唆する格言だったと言うのさ。

女は死なへんて、そないな格言がありうるんか?
猫が九生を持つくらいです。

女が死なないことに何の不思議もありませんわ。

しかし「すべての女のうちに、一人の女も見出せなかった。」と言う。

つまり、女だって不死ではないとここで言っているというわけだ。

うーん……。

謎。

それをここで語る意味も分かりませんし。

随分と回りくどい表現ですこと。

他に、ドイツの神学者イングリット・リーゼナー。

彼女はここで言う女を『箴言』のように知恵だと考えた。

ああ、それはなんか良さそうやな。

「一人の女も見出せなかった」は知恵が見つからんみたいなニュアンスなるやん。

しかしお姉さま。

そうすると「千人のうちに、一人の男を見出した」が分からなくなりましてよ。

知恵の対比であれば愚かさとなりますが、男を愚かとする表現はありません。

結局、どうあがいてもはっきりとした結論は出ないだろうね。

コヘレトがここで何を表現しているのか、はっきりとは分からない。

そんな中、ドイツの神学者クラウス・バルツァーの考察は面白い。

彼によれば、この箇所は軍事に関する記載だと言うんだ。

どゆこと?
例えば「罠」は軍事行為、「千人」は旅団という風に考える。

勝手なこじつけではなく、元のヘブライ語でそのような意味があるそうだ。

では「一人の女も見出せなかった」は軍に女がいないという意味かしら。
その通り。

ここで語られているのは女性蔑視がどうとかじゃない。

次の節を見てみよう。

『コヘレト』第7章29節

しかし、わたしが発見した次のことだけに目を留めよ。

神は人を正しい者に造られたが、

人はさまざまな策略を探し求めたのだ。

そのまま読んでも意味不明だけどね。

バルツァーは「策略」は攻城要塞を意味すると言う。

そしてそれを探し求める者の中に女はいない。

つまり、男が戦争で人を殺すのだとここで語っているのさ。

しょっちゅう女に殺されとるけどな。
まあ、主力ではございませんし。

そこはレアケースということで。

もちろんこれが正解、かどうかは分からない。

小友聡もここからさらなる論理展開を繰り広げている。

気になる人は彼の論文を直接見てほしい。

国立国会図書館デジタルコレクションで検索出来るから。

(実はこん時たまたま、女に振られたとかやったりして……)
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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