8.ヨアブの戦い

文字数 1,008文字

反逆者であり王の子であるアブサロムは死んだ。

王ダビデは悲しみ、自らが代わりに死ねばよかったと嘆いた。

それを知った総司令官ヨアブは王ダビデをなじった。

子を失う悲しみは分からなくもない。

けれどダビデは王だ。

そんな風に悲しめば兵たちはどう思うか。

まるで兵たちが死んで、アブサロムが生き残れば良かったと言っているようなものだ。

そう言ってヨアブはダビデを批判し、兵たちに語りかけるよう促した。

王としての責務を全うするように言ったわけだね。

ダビデはなんやかんや言うて心が弱いとこあるな。

それはそれで一つの魅力なんやろけど。

強いだけの王を民は求めていないのでしょう。

彼らはその弱さも含めて王を愛するのです。

強さだけであれば、ヨアブこそ王になるべきでしょう。

しかしそうはせず、ヨアブは王の補佐に徹する。

なかなかの忠義ね!

わたくしの軍に加えてあげたいくらい。

間違いなく断るだろうね。
ダビデはヨアブに代えてアマサを総司令官とした。

その後、シェバの反乱があり、ダビデはアマサに兵を三日で集めるよう指示した。

しかしアマサは間に合わせることが出来なかった。

ヨアブはアマサに近づき、これを殺した。

そして兵をまとめ、シェバをイスラエル最北のマアカに追い詰めた。

ヨアブは優秀やな。

目的を果たすためなら、味方でも容赦せえへん。

そのように冷徹であることが、より多くの味方を生かすのですわ。
せやな。

なかなか出来ることちゃうで。

ヨアブの兵が城壁の破壊作業をしていると、一人の賢い女が声を上げた。

彼女はヨアブに対し、なぜ主のものである町を滅ぼそうとするのかと問うた。

ヨアブはそのようなつもりは無く、シェバの首さえあれば良いと言った。

すると女は町に戻り、住民を説き、シェバの首をはねてヨアブに投げ寄越した。

町の人間もシェバと心中する気は無かってんな。

民心を得てもおらんのに反逆ののろしを上げたらあかんで。

しかしこの女は何もんや?

えらい、どうどうとしてはるけど。

名前は無いね。

ただの「賢い女」として登場するんだ。

賢い女。

これは士師または初期王制時代、女性の模範としてあったんじゃないか。

例えば1981年にテキサス大学のクラウディア・キャンプ教授がそう語っているね。

難しい場面での交渉力。

それこそが「賢い女」の持つ力なのさ。

日本神話だとイザナギとイザナミの仲を取り持ったキクリヒメなんかがそれに近いかも。

シェバの首を受け取り、ヨアブはエルサレムの王のもとへ帰った。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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