7.王子アブサロムの反乱

エピソード文字数 1,305文字

アブサロムはイスラエルで最も美しいと言われるほどの美丈夫だった。

彼は民衆の人望を集め、その勢いはダビデを凌いですらいたんだ。

長男だったアムノンは彼の手によって死んだ。

このまま行けば何もせずとも彼が次の王になる。

せやのに謀反したんか。

何でやろ。

預言者ナタンによって、ソロモンに「エディドヤ」という名が与えられたんだ。

「エディドヤ」とは「主に愛された者」という意味。

要するにソロモンこそがダビデの後継者であるということになる。

ダビデは後継者について語らない。

焦れたアブサロムが王位を狙って動いた……。

なんて話かもしれないね。

それっぽい話ですけれど、本当かしら?

案外、彼をそそのかす悪人でもいたのではなくて?

その可能性もあるね。

ダビデやアブサロムの政治顧問、アヒトフェルという男がいる。

アヒトフェルはアブサロムについて謀反に協力した。

彼は実はソロモンの母、バト・シェバの祖父だと考えられているんだ。

バト・シェバは夫を殺された不幸な女や。

ダビデに恨みを持っとってもおかしない。

その孫娘の恨みを晴らしたろう。

そういう話か?

愛し愛され憎み憎まれ。

復讐が復讐を呼び混沌とす。

なんと愉快な。
民衆の心はアブサロムに移り、ダビデは窮地に立たされた。

エルサレムを脱出し、家来を連れてオリーブ山の坂道を上った。

オリーブ「山(やま)」と言っても、その高さはさほどでもない。

エルサレムよりも数十メートル高いくらいなんだ。

北西にはかの有名なゲッセマネ(オリーブの油搾り場)があるよ。

エルサレムの目と鼻の先か。

高所なら有利に戦えそうやな。

ダビデは友人のフシャイをアブサロムのところに送る。

そしてフシャイは大きな役割を果たすんだ。

アヒトフェルはアブサロムに対し、速やかな決戦を提案した。

しかしフシャイはダビデは勇者であるから、より多くの兵を集めるべきと言った。

アブサロムはフシャイの案を採用した。

兵は拙速を聞くも、未だ巧(たくみ)の久しきを賭(み)ざるなり。

時間をかけるっちゅうことは、相手に時間を与えるってことやで。

アブサロムはおぼっちゃんやからな。

戦争のことは何にも分かっとらへん。

対するダビデは少年の頃から戦い続けてきた。

勝てると思う方がどうかしている。

ダビデは速やかに撤退し、マハナイムにて兵を整えた。

アヒトフェルは自ら首をくくって死んだ。

あら。
アレクサンダー・フランシス・カークパトリック。

19世紀後半にケンブリッジ大学で欽定教授を務めていた人だけどね。

彼によれば、記録上、最初の意図的な自殺だそうだよ。

たぶん、この時点でもう勝ち目は無いと思ったんやろな。

ダビデに勝つには奇襲しかない。

そして決戦の時が来た。

けれどダビデはアブサロムを殺さないよう兵に伝える。

しかし、歴戦の勇士ヨアブはそれを無視したんだ。

彼はアブサロムの心臓を槍で貫いた。

またしてもヨアブですの?

殺された弟の恨みで、ダビデの意に反してアブネルを殺した男でしょう。

実はバト・シェバの夫ウリヤを激戦地に送ったのもヨアブの働きだったりする。

要するに汚れ役。

ダビデの暗部ってとこやな。

綺麗ごとだけでは済まされない。

そういう世界において、ヨアブは最大の貢献者なのかもしれないね。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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