1.最後の審判

文字数 1,137文字

『知恵の書』はその名の通り、知恵に関する書物だ。

これはプロテスタントにおいては外典(Apocrypha)とされる。

カトリックや正教会において、聖書に含まれるね。

名前からしてまた難しそうやな。

知恵は『箴言』とかで散々詰め込んだんやから、もうええんちゃうか?

「算多きは勝ち、算少なきは勝たず」などと申します。

知恵は多い方が勝ったようなものにございますわ。

くっ……。

孫子さん出されたら、うちには反論のしようもあらへん。

ミカちゃん。

実は、神よりも孫子の方が好きだよね。

主の霊は全世界に満ちており、すべてを保ち、人のいかなる声も知っている。

それ故、不義を語る者は身を隠しきれず、義の懲らしめを免れない。

まあ、なんせ神様やからな。

知らんことはあらへん。

あらあら。

それでは、以前にお姉さまが上司に不満を漏らしていたことも……。

あ……。
神様だーい好き。

ほんま、アーメンやで。

むしろ状況を悪化させるような……。
神は人を朽ちないものとして造り、ご自分の本性(ほんせい)の似姿として造られた。

しかし、悪魔の妬みによって死がこの世に入った。

そして、その配下にある者たちは死を味わう。

草どもが死ぬのは、わたくしたちのせい……。

だそうよ、サタニャエル。

ふふっ。

照れるにゃ。

そうか。

うちはてっきり、イザナミノミコトがやらかしとるんかと思っとったわ。

それは日本限定の話だろうね。
義人の魂は神の手にあり、どんな責め苦も彼らに触れることはない。

悪人は彼らの思いにふさわしい懲らしめを受ける。

義人とは要するに神の教えに忠実で、慈しみを持った人のことだ。

対する悪人は神に従わず、刹那的で、自分勝手な人のことだね。

自分勝手に生きずして、いったい何が楽しいのかしら。

己を殺して生きるのは死んだようなものでしてよ。

自分勝手に生きないからって、別に己を殺すとかそんなんちゃう思うで。

まっとうに生活しながら自由を謳歌することも出来る。

自分勝手っちゅうのは、自由さえも逸脱した行為なんや。

ここで悪人の例として挙げられているのは姦通。

つまり不倫のことだね。

不倫によって生まれた子供さえも幸福にはならないと語っているんだ。

なるほど。

でしたら納得いたします。

さっさと死刑にいたしましょう。

わたくしは自分勝手を奨励いたします。

ただし、それ相応の対処が為されることをお忘れなく。

罪が数えられるとき、彼らは震えおののきながら現れる。

義人は大いなる確信を持って立つであろう。

罪が数えられるとき、すなわち最後の審判の時だ。

ユダヤ人たちには復活の思想がある。

最後の審判において義人と認められた者が永遠の生を得る。

そして神は悪人たちに罰を与える。

稲妻や雹(ひょう)でぼこぼこにするのさ。

そないな目に遭いとうなかったら、普段から正しく生きるんやで。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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