38.ユダの死

文字数 1,409文字

『レビ記』第24章16節

主の名を冒涜する者は死刑に処せられる。

全会衆はその者を石で打ち殺さなければならない。

他国の者であれ、この国に生まれた者であれ、み名を冒涜する者は殺される。

イエスは捕まり、尋問に際して自身が神の子であると認めた。

これは神に対する冒涜と捉えられたんだ。

唯一絶対の神に並び立つなどと自称されればそう思うのもやむなしさ。

そしてイエスは『レビ記』の語る通り、冒涜の罪により死刑が定まった。

イエスが逮捕された際、弟子たちは逃げ出していましたわね。

彼らはどうしたのかしら。

ここで注目されるのは一番弟子のペトロ。

そしてイエスを裏切ったユダの二人だ。

ペトロについては、事前にイエスがその行動を予言していたね。

たしか、イエスとの関係を問いただされても否定するってやつやな。

それも三回も。

ペトロ自身はそんなことはしないと言った。

しかし実際にはイエスの言う通りとなってしまったんだ。

ペトロは外の中庭で、一人の召使の女にイエスと一緒にいただろうと問われた。

しかしペトロは「何を言っているのか分からない」とそれを打ち消した。

ペトロが門に進むと、他の召使の女にイエスと一緒にいたと言われた。

ペトロは誓って「そんな人は知らない」と再び否定した。

そこに居合わせた人々が言葉の訛りを指摘してイエスの仲間だと言った。

ペトロは呪い、誓いながら「そんな人は知らない」と言った。

するとすぐに鶏が鳴いた。

17世紀フランドルの画家、テオドール・ロンバウツの作。

ばくち打ちのごろつきにイエスの一味だろうと言われながら、しらを切るペトロ。

奥には剣に手をかけた男の姿もあって、緊張感が漂っている。

あんなに否定せえへん言うとったのに、イエス様の言う通りになってもうた。

なんでなんやろ。

やっぱ怖かったんかな。

ペトロの立場になればほとんどの人が同じように振る舞うだろう。

彼は人の弱さを代表しているとも言えるね。

そしてその弱さを強く悔いて、激しく泣いた。

夜が明けた後、祭司長たちはイエスを総督ピラトに引き渡した。

イエスを裏切ったユダは死刑判決を知り後悔した。

銀貨三十枚を祭司長や長老に返して、

「わたしは罪のない人の血を売って、罪を犯しました」と言った。

すると彼らは言った、

「われわれの知ったことではない。自分で始末するがよい」。

ユダは銀貨を聖所に投げ込んで立ち去り、首をくくって死んだ。

ユダさん、首くくっとるやないか。
ユダの死については曖昧なところがある。

『使徒言行録』では報酬で土地を買って、そこに「落ちて」死んだと言う。

どういう死に方か分からないけれど、不慮の事故に遭ったように読める。

他にも変わった話がある。

それはアポクリファ(外典)の一つ『ニコデモによる福音書』によるらしい。

『ニコデモによる福音書』より

ユダが家に帰ると、彼の妻が残り火で鶏を焙っていた。

ユダは妻に「首をくくるため」鶏を吊るすロープを渡すように言った。

妻はこの鶏が鳴きでもしなければイエスが蘇ることも無いと言った。

するとその後すぐに鶏が翼を広げ、三度鳴き声を上げた。

ユダは驚き、すぐさまロープで首を吊り、息絶えた。

面白そうな体験ではありませんか。

慌てて死ぬなどもったいない。

復活の奇跡を起こせるのはイエス様くらいやからな。

肉体がのうなっても、すぐ近くにイエス様の霊がおると思ったんやろか。

いずれにせよ、世界一有名な裏切者の死はあっけないものだった。

そしていよいよ、磔刑の時が近づく。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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