7.戦争に関して

文字数 828文字

戦いに出るとき、数の多い軍勢を恐れてはならない。

神様が共にいるのだから。

さあ、戦争を始めましょう。
圧倒的な力で敵を蹂躙するのも悪くないけれど。

わたくし的には、寡兵をもって強敵を打ち砕く展開が好みかしら。

ここで語られるのは申命法典だからね。

まだ実際の戦争には突入しないよ。

あらそうなの?

早く始まらないかしら。

戦争は歴史の華なのよ。
新しい家を建て、それを奉献(ほうけん)していない者は家に帰りなさい。

戦死して、ほかの者がそれを奉献するようなことがないように。

あら。

戦争せずに帰るのかしら。

申命記ではいくつか、戦争に参加しない場合が書かれているね。
ぶどう畑を作り、収穫を味わっていない者は帰りなさい。

戦死して、ほかの者が収穫を味わうようなことがないように。


婚約し、結婚していない者は帰りなさい。

戦死して、ほかの男が彼女と結婚することがないように。

お優しいこと。

むしろ戦争のために結婚させないのではなくって?

僕なりの解釈だけど、これは戦争のための準備とも言える。

まず家の奉献というのは、神に財産を捧げることだ。

だから、全てにおいて信仰が優先されるんだ。

農耕は、食料の調達。

結婚は民族の繁栄、すなわち兵力の拡充。

そうした基礎的な力を疎かにしない。

これこそが兵の強さの秘訣なんだよ。

草どもの戦争は大変ね!

わたくしなら、一人で万の軍勢を滅ぼしてみせますわよ。

恐れて弱気になっている者は家に帰りなさい。

兄弟たちの心が彼のように挫けるといけないから。

恐怖は伝染する。

正しい判断ですわね。

町が降伏を受け入れるなら、住民を強制労働に服させなさい。

降伏を受け入れないなら男を皆殺しにし、女と子供、家畜を略奪しても良い。

結構なこと。

かつて自分たちが受けた苦しみを他民族にもおすそわけというわけ。

映画『十戒』のイメージは強烈だね。

ユダヤ人たちは虐げられた被害者という印象を持たれがちだ。

けれど聖書を読めば分かる。

彼らもしっかりと加害者の役割を演じているのさ。

弱肉強食!

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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