8.王アビメレク

文字数 1,198文字

アビメレクという名の意味は「我が父は王である」

彼はギデオンの息子で、シケムの王になった。

ん?

「我が父は王である」って、ギデオンは王様ならへんかったやん。

ギデオンが王にならなかったのは、治めるべきは神であるから。

ゆえに彼は自分の息子も王にならないと言っていたわね。

しかしアビメレクはシケムの頭(かしら)たちにかつがれて王になった。

そして彼が最初に行ったのは、邪魔な兄弟たちの抹殺だった。

アビメレクはならず者を雇い、七十人の兄弟たちを殺した。

末の子のヨタムは隠れて生き残った。

血の粛清で始まる王か……。

これは長続きせんやろな。

なんとなくだけど三国志に登場する魏の初代皇帝、曹丕が思い浮かぶね。

彼の父は有名な魏王曹操だけれど、皇帝の地位には上らなかった。

その線引きを破った曹丕は血の粛清で政治を始めるんだ。

アビメレクの治世においてシケムの頭たちと不和が生じた。

エベドの子ガアルがシケムの頭たちを扇動し、謀反を起こさせた。

しかし彼らはアビメレクにより鎮圧され、逃げ出した。

王の素質が無かったっちゅうことやな。

シケムの頭とかいう連中も見る目が無かったんやろ。

アビメレクはシケムの町を破壊した。

民を殺し、町に塩をまいた。

王たるものが民を殺せばどうなるか。

末路が見えましてよ。

てか、何で塩まいてるん?
日本人は塩と言えばすぐに清めを連想するけどね。

ここでは荒廃と不毛の象徴的行為だよ。

エレミヤ書にもこう書いてある。

「主からその心を背ける者は呪われる」

「人の住まない塩地に住む」

ことが土地に関することであれば、塩にまみれた土地は住めない場所ってことだね。
そもそも日本人は何で塩が清めになると思うんや?
おそらく、海からの恵みが影響しているんだと思うよ。

海は食べ物に限らず、真珠や琥珀といったものまで与えてくれる素晴らしいものなんだ。

だから本当に神聖なのは海水で、塩はその代用だね。

後は食べ物の塩漬けが保存食によく使われるとかかな。

その意味でならユダヤでも「コーシェル」として用いるから、清めに近いかもね。

アビメレクによってシケムの頭たちは隠れていた地下室ごと焼かれた。

男女合わせておよそ1,000人が死んだ。

その後、アビメレクはテベツの町を占領した。

塔に立て籠もったテベツの頭たちを焼き殺そうとした。

一人の女が碾き臼の上石をアビメレクに落とし、頭蓋骨を砕いた。

好き勝手やらかした割りに、なんともしょうもない幕切れやったな。

この女ってのは何ものなんや?

聖書では彼女について他に言及されていない。

アビメレクは無名の女に殺されるという不名誉を恐れて、従者に自分を殺すよう言ったんだ。

ここまで知られてはむなしい願いでしたわね。

聖書を見れば誰もが、アビメレクは女に殺されたと記憶されるでしょう。

とどめが誰であるかはさして問題にならないわ。

この後、士師トラと士師ヤイルについて聖書では軽く触れている。

共に20年以上働いて死んだ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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