13.預言者イザヤの処刑

文字数 1,192文字

ユダ王国の攻略に失敗したアッシリア王センナケリブは息子に殺されたと言う。

そしてユダ王ヒゼキヤも死に、彼の子マナセが12歳で王位についた。

ヒゼキヤは熱心に主に仕えたけれど、マナセは真逆だ。

バアルの祭壇を築き、アシェラ像を造ってしまう。

わたくしは別に拝んでくれだなんて頼んではおりませんのよ?
神と違ってね。
マナセは自分の息子に火の中を通らせ、占いやまじないをした。
ケモシュ、またはモレクやな。

子供の生贄を求める神。

バアルとアシェラだけでは足りんか。

強欲な王やで。

そして神はぶち切れた。
主は預言者たちを通して言った。

「マナセはかつてのアモリ人よりも悪いことを行った」

「わたしはエルサレムとユダに災いをもたらす」

「人が皿を拭うように、エルサレムを拭い去る」

滅びの宣告ですわね。

それなりに長く続いたユダ王国もおしまいというわけ。

実際のところアッシリア王国は強大だ。

戦い続けるか、それとも服属するかは判断が難しい。

マナセはユダ王国を存続させるために、服属の道を選んだんだろうと思う。

けれど預言者たちはそれを良しとしなかったのさ。

互いに譲れんもんもあるやろしな。

そんで、マナセはどないしたんや?

まさか、悪役が言われっぱなしっちゅうことはないやろ?
まあね。

聖書には「罪のない者の血を大量に流し、エルサレムを端から端まで満たした」とある。

これはたぶん、マナセを糾弾した預言者たちを殺したという意味だと思う。
17世紀フランスの聖書歴史学者、ルイ・エリーズ・デュパン(Louis Ellies Dupin)

彼の著した旧約聖書の解説書、それの英訳版だね。

wooden-saw...

のこぎりで、真っ二つに?

イスラエルの伝統的な処刑方法とされる。

逆さづりにした人間を、股間からのこぎりで切り裂くんだ。

こわっ……!

イスラエルに限らず、広く西洋諸国で採用された処刑方法らしい。

しかし聖書には預言者が誰とも書かれていない。

それを処刑したとして、方法も記されていない。

書いてあるのは別の聖典、タルムード(Yevamot 49b)だよ。

そこにはマナセとイザヤの問答、処刑の顛末が書かれている。

マナセは言った。

「出エジプト記において、神は自分の顔を見て人は生きられないという」

「しかしイザヤは神の傍に行き、神を見たという」

こんな風にイザヤの正統性に疑問を投げかける。

しかしイザヤは抗わない。

何を言ったところでマナセが自分を殺すつもりであると分かっていたのだから。

マナセの従者が杉の木にイザヤを吊るし、のこぎりを引いた。

のこぎりが口にまでたどり着いた時、イザヤは死んだ。

戦いで敵を殺すんは平気やけど、処刑ってのは勘弁してほしいな。

この違いが何なのかは分からへんけど。

想像するだけで、ひぇ……って、なってまう。
マナセの行いによって、ユダ王国の滅亡は決定付けられたとされる。

と言いつつ、すぐに滅びるのではなく、あと何代か続くんだ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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