5.ペトロの癒やし

エピソード文字数 1,506文字

ペトロとヨハネは、午後三時の祈りの時間に神殿に上って行った。

すると、生まれながら足の不自由な男が運ばれて来た。

この男は、神殿に入る人々に施しを乞うために、毎日、

「麗しの門」と呼ばれる神殿の門の所に置いてもらっていた。

「麗しの門」とさらりと書かれているけれど、実はどこのことか判別していない。

神殿には複数の門があるからね。

とは言え、施しを求めるような場所なら大勢の人が通るだろう。

神殿正面にある「ニカノルの門」がそれだろうと考えられている。

「麗しい」とは上手な表現ですわね。

古代ギリシア語のホライオス(hóraios)には「美しい」「公正な」の意味があります。

それらの意味を兼ね備えた言葉として「麗しい」が選ばれたのでしょう。

他に「時宜にかなった」という意味もありましてよ。

とは言え「時宜にかなった門」などと言うのもおかしな訳かしらね。

その意味も汲んだ学者もいる。

「美(beauty)」よりも「成熟(ripeness)」が適しているってね。

(Strelan, Rick (2001). Keys to the Gate Beautiful (Acts 3:1-10) 参照)

その足の不自由な人はペトロとヨハネに施しを求めた。

それに対し、ペトロはこう答えたんだ。

「わたしには銀も金もない。しかし、わたしの持っているものをあげよう。

ナザレのイエス・キリストの名によって、歩きなさい」

イエス様の名によって、か。

悪霊退治とかでもよく使ってたな。

ペトロはイエスの名によって奇跡を起こした。

足の不自由だった人が「踊りあがって自分で立った」のさ。

歩き回って、飛び回って、神を賛美したという。

めちゃくちゃ嬉しかったんだろう。

その後、ペトロは神殿内で説教を行った。

イエスによる信仰が足の不自由な人を癒やしたのだと。

ゆえに人々は皆、悔い改める、すなわち神に立ち返るべきだとね。

ペトロとヨハネが民に語っていると、祭司たち、

神殿守衛長、サドカイ派の人々が近づいてきた。

イエスの復活を知らせ、死者の復活を宣べ伝えていることにいら立ち、

二人を捕らえて、夕方であったため翌日まで拘留することにした。

せっかく面倒なイエスを十字架刑にしたというのに。

今度はその弟子がしゃしゃり出てきて好き勝手を言う。

まったく頭の痛いことですわね。

ペトロとヨハネは審問を受けた。

そこでの印象はなかなかに強烈なものだったらしい。

彼らはペトロとヨハネの大胆な話しぶりを見、また、

二人が無学な普通の人であることを知って驚き、

二人が、かつてイエスとともにいたことも分かった。

「無学な」とされる箇所は古代ギリシア語「アグランマトス(agrámmatos)」

これの意味は他に「文盲」などございましてよ。

福音書やら黙示録やらを書くくらいやし、「文盲」は無さそうやな。

それにしても「無学」ってのは、どういう意味なんや。

ペトロもヨハネも賢そうに見えるんやけどなあ。

ここで「無学」と言っているのは、審問による中身のことではない。

ペトロやヨハネは元々漁師で、さしたる学問を授かっているわけでもない。

それなのに堂々とした態度で受け答えをするのに驚いたということさ。

なるほど。

本田技研工業の創始者本田宗一郎とか、総理大臣やった田中角栄みたいやな。

二人とも最終学歴が高等小学校(現代の中学校)卒なんやで。

学歴は無いけれど、学はあるってところかな。

本田宗一郎も田中角栄も非常に勉強熱心なことでも知られるね。

祭司たちは「イエスの名によって」語るなと二人を脅しつけた。

しかし二人は祭司にではなく神の前に正しいかどうかで判断すると言った。

結局、祭司たちは二人を罰することも出来ずに釈放することとなった。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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