天使と悪魔の聖書漫談

5.イスラエル王サウルの勝利

エピソードの総文字数=1,234文字

サムエルはイスラエルの子らに、王を立てることを告げた。

各部族を前に出させ、ベニヤミン族マトリ氏族キシュの息子、サウルがくじで選ばれた。

サウルはとっくに神様に選ばれとったやん。

サムエルも知ってんのに、なんでわざわざくじ引きしとるん?

僕らはいわゆる「神の視点」で聖書を追っている。

確かになんでわざわざって思うよね。

でも彼ら人間は、そういう背景を知らないのさ。

要は、サウルを選んだのは神であることを示すための儀式だよ。

人が勝手な振る舞いをしないよう、神の権威をしっかり維持したのさ。

あらまあ、めんどうなこと。

草どもは非効率がお好みなのね。

急がば回れやで。

こういう根回しが社会を動かすのに大事なんや。

お姉さまの仰るとおりですわ!
……。
あと、おそらく神だけじゃない。

サウルの権威を高めるという意図もあるだろうね。

室町時代の籤(くじ)引き将軍足利義教について話しただろう?

彼はくじ引きで選ばれたがゆえに、神に選ばれた将軍として強権を振るった。

それがあだとなって死ぬのだけれど、神は治世者に絶大な力を与えるのさ。

中世ヨーロッパに王権神授説、なんてのもあったしな。

あれなんか分かりやすいやろ。

中華の歴代皇帝たちも天命によって選ばれたとされるからね。

モンゴルだとこれを「テングリ・ハイラハン」と言って人格を持つ創造神としている。

話が長くなったね。

要するにくじ引きは神とサウルの両方にとって必要なパフォーマンスだったのさ。

くじによってサウルが王に選ばれた。

しかし、それを良しとしない者たちもいた。

そのことについてサウルは何も言わなかった。

くじ引きパフォーマンスも完璧やないんやな。
くじ引きをしなければ、もっと大勢が文句を言ったかもしれないね。
アンモン人ナハシュが攻めてきた。

彼はギレアドのヤベシュを包囲した。

ヤベシュの人々はアンモン人に従うことで協定を願い出た。

ナハシュはヤベシュの人々から右目を抉り取ることを協定の条件とした。

右目を、抉る?
一つ目小僧かしらね。

神に目でも捧げる気?

実は長らく宗教学者たちは理由をうまく説明できないでいた。

けれど死海文書の発見で、その部分が埋められたのさ。


死海文書ってあれやろ?

『新世紀エヴァンゲリオン』に出てきたやつ。

そっちだと「裏死海文書」と呼ばれていたやつだね。

内容的には全く関係ないものだけど。

ナハシュが右目を求めたのは、ヤベシュを無力化するためだった。

軍事力を無くすことで自分たちに逆らえないようにするつもりだった。

確かに片目を無くしてそうそう戦えるもんでもないわな。

夏侯惇(かこうとん)やあるまいし。

まあ、想像はつくけど、死海文書で裏取りできたってとこやろな。
サウルはヤベシュの人々を救うために兵を出した。

夜明けの見張りの時刻に敵陣に攻め入り、アンモン人を討った。

いわゆる「払暁(ふつぎょう)攻撃」ですわね。

明け方の寝ぼけ眼に一撃を食らわせてさしあげるのよ。

この勝利によって、サウルは民の信頼を得た。

そしてギルガルにおいて正式に王となったのさ。

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