5.イスラエル王サウルの勝利

エピソード文字数 1,232文字

サムエルはイスラエルの子らに、王を立てることを告げた。

各部族を前に出させ、ベニヤミン族マトリ氏族キシュの息子、サウルがくじで選ばれた。

サウルはとっくに神様に選ばれとったやん。

サムエルも知ってんのに、なんでわざわざくじ引きしとるん?

僕らはいわゆる「神の視点」で聖書を追っている。

確かになんでわざわざって思うよね。

でも彼ら人間は、そういう背景を知らないのさ。

要は、サウルを選んだのは神であることを示すための儀式だよ。

人が勝手な振る舞いをしないよう、神の権威をしっかり維持したのさ。

あらまあ、めんどうなこと。

草どもは非効率がお好みなのね。

急がば回れやで。

こういう根回しが社会を動かすのに大事なんや。

お姉さまの仰るとおりですわ!
……。
あと、おそらく神だけじゃない。

サウルの権威を高めるという意図もあるだろうね。

室町時代の籤(くじ)引き将軍足利義教について話しただろう?

彼はくじ引きで選ばれたがゆえに、神に選ばれた将軍として強権を振るった。

それがあだとなって死ぬのだけれど、神は治世者に絶大な力を与えるのさ。

中世ヨーロッパに王権神授説、なんてのもあったしな。

あれなんか分かりやすいやろ。

中華の歴代皇帝たちも天命によって選ばれたとされるからね。

モンゴルだとこれを「テングリ・ハイラハン」と言って人格を持つ創造神としている。

話が長くなったね。

要するにくじ引きは神とサウルの両方にとって必要なパフォーマンスだったのさ。

くじによってサウルが王に選ばれた。

しかし、それを良しとしない者たちもいた。

そのことについてサウルは何も言わなかった。

くじ引きパフォーマンスも完璧やないんやな。
くじ引きをしなければ、もっと大勢が文句を言ったかもしれないね。
アンモン人ナハシュが攻めてきた。

彼はギレアドのヤベシュを包囲した。

ヤベシュの人々はアンモン人に従うことで協定を願い出た。

ナハシュはヤベシュの人々から右目を抉り取ることを協定の条件とした。

右目を、抉る?
一つ目小僧かしらね。

神に目でも捧げる気?

実は長らく宗教学者たちは理由をうまく説明できないでいた。

けれど死海文書の発見で、その部分が埋められたのさ。


死海文書ってあれやろ?

『新世紀エヴァンゲリオン』に出てきたやつ。

そっちだと「裏死海文書」と呼ばれていたやつだね。

内容的には全く関係ないものだけど。

ナハシュが右目を求めたのは、ヤベシュを無力化するためだった。

軍事力を無くすことで自分たちに逆らえないようにするつもりだった。

確かに片目を無くしてそうそう戦えるもんでもないわな。

夏侯惇(かこうとん)やあるまいし。

まあ、想像はつくけど、死海文書で裏取りできたってとこか。
サウルはヤベシュの人々を救うために兵を出した。

夜明けの見張りの時刻に敵陣に攻め入り、アンモン人を討った。

いわゆる「払暁(ふつぎょう)攻撃」ですわね。

明け方の寝ぼけ眼に一撃を食らわせてさしあげるのよ。

この勝利によって、サウルは民の信頼を得た。

そしてギルガルにおいて正式に王となったのさ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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