12.民族宗教から世界宗教へ

文字数 992文字

民族宗教と世界宗教?

よう分からんけど、神様は神様や。

何か違いでもあるんやろか。

祈りをささげる連中の分類が異なるのです。

特定の民族や人種によってのみ信じられている宗教が民族宗教。

そのような垣根を取り払ったものが世界宗教となりましてよ。

人類みな平等などと言いながら、そういう線引きには熱心ですの。
学問は分類することが大事だからね。

なんでもかんでも同じというわけにはいかない。

具体的にはキリスト教、イスラム教、仏教の三つを世界宗教と言う。

そしてそれ以外を民族宗教と呼ぶんだ。

ただ、その境界は曖昧で、世界宗教的な要素を持つ民族宗教も少なくない。

特にここで僕らが語るべきはユダヤ教だろう。

ユダヤ教は民族宗教の代表格にあがる。

とは言え、世界宗教的な性質はずっと昔から持っていた。

そういや『ルツ記』のルツは外国人やん。

「特定の民族や人種によってのみ信じられている」わけちゃうで。

キリスト教徒が突然世界宗教へと変化したわけじゃない。

『イザヤ書』においても、それを示す箇所がある。

「彼らの唇の実を創造しよう。遠くにいる者にも、近くにいる者にも

平和、平和があるように」と、主は仰せになる。

「わたしは彼を癒やそう」と。

この平和はユダヤ人だけではなく、異邦人に対しても与えられる。

『エフェソの信徒への手紙』において聖パウロが語った言葉だ。

『エフェソの信徒への手紙』第2章13節

しかし、かつてこれらのことから遠く離れていたあなた方は、今や、キリスト・イエスに結ばれ、キリストの血によって近くにいるものとなりました。


『エフェソの信徒への手紙』第2章17節

キリストは来られ、遠くの者であったあなた方に平和を、近くの者にも平和を、福音として告げ知らせました。

『イザヤ書』はイスラエルの民にとっての聖典です。

その中において、すでに「遠くにいる者」への救いが示されていたということ。

ユダヤ教徒を「選民思想」だと言って非難する人もいる。

そう言う人たちはユダヤ教を排他的なものだとみなしている。

中にはそんな風に読める箇所もあるだろう。

だけど、そもそもキリスト教の礎となったのがユダヤ教だ。

『イザヤ書』のような広い救いを与える内容も含まれている。

長く読み継がれるにはそれなりの理由があんねんな。

ほんまにただの選民思想やったら、あっちゅう間に干からびとったやろ。

民族とか世界とか。

いつから人はそんな単純になってもうたんやろなあ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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