8.ソロモンの第二の箴言①

文字数 882文字

送りもしない贈り物を誇る者は、

雨を降らさない雪や風のようなものだ。

政治家の「マニフェスト」など、とても分かりやすい例でしてよ。

やれ無料だの、やれ手当だのと民心誑かし、挙句見放される。

出来ぬことを出来ると言い、無いものを有ると言った。

その結果は無様ですわ。

確かになあ。

できへんもんを「できる」言うたらあかん。

太平洋戦争でも日本は負けるってシミュレーションしとったらしいやん。

そんで「やってみんと分からん」て、なんやそれやろ。

猪瀬直樹の『昭和16年夏の敗戦』だね。

様々な専門家を集めた総力戦研究所で行われたシミュレーション。

その結果は現実にかなり近いものだったと言う。

やってみなくちゃ分からない……。

そんな言葉はまやかしさ。

大事なことは、成果とリスクの兼ね合いだ。

とは言え、いつも揉めるところだけどね。

もしお前の敵が飢えているなら、パンを食べさせ、

もし渇いているなら、水を飲ませよ。


お前は、こうして、彼の頭に燃える炭火を積むことになり、

主がお前に報いてくださる。

上杉謙信が武田信玄に塩を送った、みたいな話やな。

あれは美談やのうて単なるビジネスやとか……。

病気の武田信玄をもっと悪化させたろ思うたみたいな話もどっかで聞いたわ。

実際のところはさて置き……。

一般には敵であっても情けをかける美談として知られているね。

『箴言』第25章21-22節は敵であろうとも情けを示すべしと言う。

キリスト教的に解釈すれば、これは神の愛というわけだ。

『マタイによる福音書』第5章44節に「汝の敵を愛せよ」とある。

この辺と重ねて理解しようということさ。

けれど、それですと「彼の頭に燃える炭火を積む」とは何かしら。

相手に「痛恨」の念を抱かせるのが愛だとでも?

僕としてはこれは神の愛なんてもんじゃない。

相手の良心に訴えた戦略だと解するのが妥当だと思うよ。

優しゅうしてくれた人に攻撃はしにくいからな。

それが飢えて苦しい時なら、なおさらやで。

弱っている相手を攻撃すれば反撃の恐れがある。

それよりは懐柔して、味方につけた方が危険が少ない。

『箴言』は道徳的でありながら、あくまで実践的。

悪くありませんわ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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