3.偵察隊、出動する

エピソード文字数 877文字

あら、サタニャエルじゃない。

こんなところで何してるの?

ビ、ビヨンデッタ……。
君こそこんなところに来るなんて、珍しいじゃないか。
エデンの園に行ってみたら、ケルビムごときに追い払われたのよ。

せっかくお姉さまのためにクッキーを焼いてきたのに。

そりゃあ君も悪魔だからね。

追い払われて当然さ。

私のように可愛い悪魔を追い払うなんて、それこそ罪ではなくって?
(ビヨンデッタは相変わらずだな……)
こんな何も無いところで猫と戯れている場合ではないわね。

さよならサタニャエル。

お姉さまを見かけたら伝えてちょうだい。

あなたの可愛いビヨンデッタがすぐ迎えにまいります、と。

分かった。

見かけたら伝えておくよ。

……。
……だそうだよ。
うちは何も見てへんし、何も聞いてへん。
そして何も言うことはあらへん。

分かったな、サタニャエルくん。

ミカちゃんはビヨンデッタが苦手だよね。

何かあったの?

……。
分かった。

じゃあ、続きを見てみようか。

モーセはカナンの地に偵察を放った。

その中のヌンの子、ホシェアにはヨシュアという新たな名を授けた。

ん? ヨシュアってもう出てへんかった?
そのヨシュアだよ。

話が前後しちゃってるけど、ここで名前が改められたんだ。

ホシェアは「救い」という意味だけど、ヨシュアで「主は救い」となる。

きっと何か活躍して、格上げされたんだろうね。

偵察隊は以下のように報告した。

・そこはまことに乳と蜜が流れています。(果物を差し出す)

・土地に住む民は強く、町々は城壁に囲まれ巨大です。

・そこにはアナクの子孫が暮らしています。

・ネゲブ地方にはヘト人、エブス人、アモリ人が住んでいます。

・海岸地方とヨルダン川沿岸地方にはカナン人が住んでいます。


カレブはモーセの前で民を静めて言った。

「是非上って行って、その土地を占領しよう」

いよいよやな。

腕が鳴るで。

ミカちゃんが行けば圧勝だろうね。
でもこれでさあ戦争だ、とはならない。

戦いで血を流すことを厭う心は誰だって持っている。

そして人心がまとまらない中での初戦は、大敗を喫するのさ。
判断のブレが兵を弱くさせてもうたんやな。

マキャベリ先生の言う通りやで。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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