20.刈り取る者

文字数 1,000文字

イエスは人に向けて語る際、よく喩え話を用いた。

彼の言葉は激しいものだったから、受け入れがたいと感じる人が多かった。

そうした人たちに向けて分かりやすいようという配慮なのさ。

喩え話の方が分かりにくくなってそうな気ぃするけどな。

急がば回れとも言うから、そんなもんかもしれへん。

愚かな草どもは見たいものばかりを見て、聞きたいことばかりを聞く。

そして大抵、こう語りましょう。

「私は違う」と。

仏教には「偽涅槃(にせねはん)」なる言葉がございます。

修行中、なにやら悟ったような恍惚とした気分になることを言います。

そしてこれこそが真理だの、悟りだのと執着し、離れられなくなる。

そんな方ばかりではありませんこと?

悟った気にならないための喩え話。

これは僕個人の意見だけれど、繰り返し自問させる意図じゃないかな。

答えはあるように見えて、定かではない。

真実は何かと各々に考えさせるための技術だよ。

天の国は次のように喩えられる。

ある人が善い種を蒔いたが、人々が眠っている間に敵が毒麦を蒔いて去った。

苗が育って実を結んだことでそれが現れた。

育つ途中でそれらを抜こうとすれば、善い麦まで抜いてしまうかもしれない。

刈り入れた後に毒麦を集めて、焼くための束にしなさい。

結局これは何が言いたいんやろ。

効率的な麦の育て方、とかか?

4世紀のキリスト教神学者、金口(きんこう)イオアンの主張はなかなか過激だ。

彼はこの喩え話をもって、国内の異教徒を殺すことは認められていないと言った。

なんや。

殺したらあかん言うんやったら、むしろ穏健なんちゃうか?

殺してはいけない。

しかし、言論の自由を認めず、集まりを解散させることまでは禁じていない。

つまり刈り入れは神の御心のままに、それまでの管理は人の手で。

書いていないことをもって許容と判断する。

強引にもほどがありますわ。

時代が移れば考え方も変化する。

17世紀アメリカの神学者ロジャー・ウィリアムズはいかにも合理的だ。

曰く、市民の手で行う刈り取りは、誤ってしまうことが多い。

まさしく神に任せるべきで、政治的な寛容を求めた。

冤罪とかがあったんかもしれへんな。

中世の魔女狩りみたいな。

そういう過ちを繰り返してはあかんという話やろ。

時代や環境に応じて仕組みを変えていくことが何より。

しかしイエスはいったいどこまでを見通していたのかしら。

毒麦を蒔いた敵は悪魔、刈り入れは代の終わり、

刈り入れる者はみ使いたちである。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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