3.天地創造・出エジプト

エピソード文字数 1,289文字

『知恵の書』最後は、天地創造とエジプトの脱出について語る。

それらを為したのはまさに知恵の力であったと語るんだ。

知恵は最初に形づくられた世の父が、

造られ、ただ一人であったとき、彼を守った。

最初に形作られた世の父……。

ああ、アダムのことですわね。

ただ一人のときっちゅうのは、嫁さんのエバがおらんってことやな。

寂しいのをこらえるのに知恵が必要やったんかなあ。

そんでエバが生まれた時、アダムは知恵の限りを尽くしてこう言うんや。

Madam I'm Adam.

……。
それはさて置き、『創世記』に関する登場人物たちが続々紹介される。

カインとアベルでは、カインがアベルを殺したのは「知恵を離れた」ことだと言う。

そして洪水の時、ノアは知恵によって導かれた。

さらには、アブラハム、ロト、ヤコブにヨセフ。

彼らは皆、知恵に導かれ、困難を乗り越えた者たちだ。

魔法のような力や、圧倒的な武力よりも知恵を尊ぶ。

そのような小賢しさは日本の神話にも通じるところがございますわね。

せやなあ。

スサノオしかり、ヤマトタケルしかり。

そのまま戦っても強いんやけど、何かしら作戦練って勝つイメージやわ。

知恵は彼らに紅海を渡らせ、大量の水の間を導いた。

しかし知恵は彼らの敵には大波を襲いかからせ、深い淵の底から彼らを吐き出した。

モーセの海割りの場面だね。

海を割り、イスラエルの民を逃がしたのも知恵の力だと言う。

マジか。

あれは知恵の力やったんか……。

何か知恵によるからくりがある、ということかしら?

さすがにあれを頭でどうこうするのは無理がありましてよ。

わたくしであれば、熱線にて海の一つでも干上がらせて見せましょうに。
あの者らは不義の故の愚かな考えに迷わされ、

理性のない爬虫類や、卑しい獣を拝んだ。

知っての通り、エジプトでは様々な神を崇拝した。

そしてある神々は動物の姿をもって民の前に現れたのさ。

あら、おかわいい。
ワニ、クロコダイルのミイラだ。

これらはセベクというワニ頭の神を表していた。

卑しい獣と言えば……。

猫頭のバステトなんてのもいましたわね。

まったく、失敬にゃ。
名も無い偶像を崇拝することは、あらゆる悪の根源、原因、末路である。
名も無い偶像って何のことや?

名前ならあるやん、アシェラ、とか。

「名も無い」というのは「存在しない」という意味だ。

古代において、物は名をつけられてはじめて存在が確立するという。

なるほどなあ。

夢枕獏の『陰陽師』でも、名前を付けるのが呪術やとか言うとったわ。

名前があることで存在が意識されたりするしな。

無いものをあるかのように見せるため、まずは名づけが必要でしょう。

特にそれが概念的なものとなると、まさに呪術めいて見えます。

主よ、あなたはすべてにおいてご自分の民を高め、

彼らに光栄を与え、彼らを見捨てず、いつでもどこでも彼らの傍らに立っておられた。

ユビキタス。

ラテン語で「至る所に遍在する」を意味します。

「神は何処にでも遍在する」ともされるのだとか。

つまり、ユビキタス社会は神様がいつも近くにおる社会ってことやな。
かなわんなあ……。
ミカちゃんにしてみれば、上司が四六時中見張ってるような気分だろうね。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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