1.アッシリア軍総司令ホロフェルネス

エピソード文字数 1,487文字

聖書は記載された内容が歴史的事実に即しているかどうかが問われる。

書かれていることは何もかも荒唐無稽、というわけではない。

そんな中、『ユディト記』に関しては完全な作り話だという声がある。

歴史的事実、もしくは歴史的事実を装飾したものだと言う学者はいる。

けれど、多くの学者は訓導のための創作だと考えているらしい。

そのように考える根拠はありまして?
ありえない人物、ありえない出来事が描かれているからだね。

本書ではアッシリア王ネブカドネツァルなる人物が登場する。

けれどネブカドネツァルはバビロニア王の名前だ。

江戸幕府将軍足利義満、みたいなもんやな。

そんなん出てきた瞬間、何かのパロディや思うわ。

全体的な展開も裏付けるような歴史資料は無い。

物語の主人公はユディトという美しい女性だ。

しかし彼女の行動は実際の歴史としては信じがたいものだった。

だから『ユディト記』については特に歴史と切り離して見る必要があるのさ。
了解や。

ほな見ていこか。

アッシリア王ネブカドネツァルはメディア王アルファクサドを討ち取った。

エクバタナを攻め、勝利し、アッシリアの都市ニネベで120日間の祝宴を催した。

その後、戦いにおいて従わなかった全ての者を滅ぼすことを決議した。

アッシリア軍総司令ホロフェルネスは大軍を率いて西方に向かった。

その途上で刃向かう敵を殺し、捕虜とし、神々を破壊した。

彼は住民たちに、ネブカドネツァルを礼拝させ、ネブカドネツァルのみを神と呼ばせた。

君主崇拝ですわ。
唯一の神を崇めるユダヤ人にとって、あり得ない振る舞いだね。
この時、イスラエルの民はバビロン捕囚から帰ったばかりだと聖書は語る。

バビロン捕囚の終わりはアケメネス朝ペルシアの時代だ。

アッシリア、バビロニア、ペルシアの流れだったね。

ちゅうことは、そんな時代にアッシリア王ってのもおかしな話なんやな。
そういうことだね。

ともあれ、物語においてイスラエルの民は大いに警戒した。

ホロフェルネスの振る舞いを聞き及び、軍備を整えた。

ホロフェルネスはイスラエルの民が軍備を整えたことを知り激怒した。

そこでアンモンの指揮官アキオルにイスラエル人について問いただした。

アキオルはイスラエルの民を敵に回せば神の怒りを受けると忠告した。

ホロフェルネスの高官たちとモアブの民はアキオルに反発した。

ホロフェルネスはアキオルをイスラエル人の元に送った。

イスラエル人共々、アキオルも殺すという意思であった。

アッシリア軍は多国籍軍やからな。

決して一枚岩やなかったっちゅうことやろ。

逆らう奴には容赦しない。

山中に陣を敷くイスラエル人をホロフェルネスは包囲してかかる。

いきなり攻め込むようなことはせず、水源を絶つ作戦を採った。

包囲から34日ほど経って、イスラエルの民も耐えられないほどに苦しくなってきた。

渇きで死ぬより、捕虜となって生きながらえたいと願う者も出てきた。

指導者である長老オジアは抵抗を断念し、5日後に町を明け渡すと誓った。

そこに現れたのが物語の主人公、ユディトだった。

美しい方ですわね。

右下に何やら不穏な気配を感じますけれど。

右下が何なのかは後ですぐに分かるさ。

帝政オーストリアの画家、グスタフ・クリムトの「ユディト」だね。

彼は後に、よりシャープなスタイルの「ユディト」を描いてもいる。

お気に入りのテーマやったんかな。
それくらい魅力的な人物だってことかもね。

聖書におけるユディトは夫を日射病で失った未亡人だ。

「非常に美しく、見目麗しかった」と書かれている。

ユディトはとても信仰の厚い女性だったと言う。

そんな彼女は長老オジアに町を明け渡すべきではないと進言する。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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