2.王妃エステル

エピソード文字数 986文字

クセルクセス王の侍従たちが言った。

容姿の美しい若いおとめたちを探させてはどうか、と。

ワシュティの代わりとなる王妃を探すためであった。

そら、王妃追い払ったら新しいお嫁さん欲しくもなるわな。

そんでやっぱり若くて美人がええやろなあ。

加えればワシュティのような跳ねっ返りはごめんでしょうね。
そうすると、ビヨンデッタは無理そうだね。
もちろん。

この程度の男に御しえる悪魔ではありませんことよ。

王の命令と勅令により、多くのおとめたちがスサの要塞に集められた。

ユダヤ人有力者モルデカイの養女エステルもその一人であった。

彼女は自分の民や親族のことを誰にも聞かせないようにした。

モルデカイにそうすることを禁じられていたためである。

前回のワシュティと同じ、エドウィン・ロングによる作品だ。

引き気味のワシュティに比べて、食い入るような眼力が特徴的だね。

どんな感じやったかな。

ちょっと並べてみよか。

ワシュティはフェミニズムの偶像と言いますが。

この絵を見る限りはエステルの方が力強い印象を受けますわね。

これがエドウィン・ロングの解釈、ということかしら。

確かに。

左のエステルの方が、何か野心秘めてそうな雰囲気出とるな。

何と言ってもエステルは物語の主役さ。

最終的な「結果」を勝ち取るのも彼女であってワシュティではない。

『士師記』における女預言者デボラ。

またはダビデの時代、反逆者シェバを追い詰めたヨアブと交渉する無名の女。

古代イスラエルにおける女の美徳は、大人しく引きこもることじゃない。

積極的に前に出て、男とも対等に交渉する知力こそ求められたんだ。

ワシュティも不満があるなら言葉で戦うべきやったな。

今となっては後の祭りやけど。

おとめたちは定めに従い、12ヶ月を後宮にて過ごした。

ミルラの油を用いる美容期間が6ヶ月。

香料や化粧品を用いる美容期間が6ヶ月。

そして順番に王のもとに行き、気に入られれば名指しで呼ばれることとなる。

1年の準備期間か。

お肌つやつやになってまうな。

逆に1年も経てば肌が衰えるのではなくて?

花の命は短いと言うのに。

きっとまだ10代だから、むしろ花咲くのを待つくらいの頃じゃないかな。
クセルクセス王は最終的にエステルを見初めた。

王は彼女の頭に王妃の冠を置いて、正式な王妃に選んだ。

王はエステルのための酒宴を催した。

各州に休日を与え、その寛大さを表して贈り物を与えた。

お酒大好き民族やな。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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