1.落穂拾い

文字数 1,437文字

とても有名な絵だね。

日本人の多くがどこかで目にしたことがあると思う。

ジャン=フランソワ・ミレーの「落穂拾い」だよ。

農村の貧困を描いたものだけどね。

『ルツ記』に基づいたものでもある。

そもそも、落穂拾いとは何ですの?
畑の刈り残しを集める作業さ。

トーラーの律法において、落穂は貧しいもののために残せと書かれている。

ルツというのは女性の名前でね。

しかもモアブ人、イスラエルにとっての外国人なんだ。

外国人?

旧約聖書やのに、ユダヤ人以外が主役になるんか。

ユダヤ教は「選民思想」的なニュアンスで語られがちだからね。

また世界宗教ではない、民族宗教の代表格だ。

そんな中で外国人が主役というのは意外に思うかもしれない。

しかし神は決してユダヤ人にとらわれるものではない。

それを示す物語として『ルツ記』は非常に重要な位置にある。

ここに世界宗教への萌芽が感じ取られるね。

モアブ人のルツはイスラエル人のマフロンと結婚した。

マフロンの弟はキルヨン、その妻をオルパと言う。(彼女もモアブ人である)

マフロンとキルヨンの母はナオミと言い、彼女の夫エリメレクはすでに他界していた。

10年ほど生活は続いたが、マフロンとキルヨンも他界し、女だけが残された。

ナオミはルツとオルパに新しい出会いを求めて去るよう促した。

二人とも泣いてナオミと共にいることを望んだが、ナオミは許さなかった。

結局、オルパはナオミに別れの口付けをした。

しかし、ルツは決してナオミから離れようとしなかった。

ナオミは説得を諦め、共にベツレヘムへと向かった。

働き手を全員失って、ほうほうの体で故郷に帰ったんか。


ルツは老いたナオミを捨てることができなかった。

彼女は落穂拾いをしてナオミの分も食糧を捜し求める。

でも、所詮は刈り残しだ。

朝から続けたところで、手に入る量はたかが知れている。

それに新参者、というのもあったと思う。

明言はされていないけれど、周囲から邪魔者扱いされていたんじゃないかな。

ルツが落穂拾いをしたのは、ボアズという者の所有する一画であった。

彼はルツが生まれ故郷を捨ててまで姑に尽くしていることを聞いていた。

ボアズはそのことに感心し、ルツにパンを振る舞い、落穂をこっそり増やすようにした。

ルツはボアズから受けた厚意をナオミに伝えた。

するとナオミはルツに、ボアズの寝るところに行って横になるよう言った。

金持ちの男に取り入ろうという魂胆ですわね。
そう見えるよね。

でもそれぞれの思いはきっと真摯なものだよ。

ナオミとしては、ルツにこれ以上苦労をかけたくない。

ルツとしては、ナオミに心配をさせたくない。

細くとも手に入れた縁にすがるんは人情やで。
そしてボアズはボアズでなかなかの紳士だった。
ボアズはルツに言った。

「わたしの娘、あなたに神様の祝福がありますように」

「老いた義理の母を見捨てない誠実さ」

「そしてその母の夫、彼の子孫を残そうとする誠実さはそれに勝る」

ボアズはルツに良縁を探すと約束した。

もし見つからなければ自分が責任をもって夫となることも約束した。

長老たちとの話し合いの結果、結局ボアズがルツを妻とすることになった。

なんやかんやでハッピーエンドで良かったわ。

今回は殺す殺されるみたいな殺伐とした雰囲気も無いし。

わたくしには少し退屈なお話でしたわ。
ルツはボアズの妻となり、オベドという男の子を産む。

そのオベドの息子がエッサイ。

そしてエッサイの息子が将来イスラエルの王となる。

彼の名はダビデ。

初代イスラエル王サウルに仕え、そのあとを継ぐ英雄さ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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