16.ユダ・マカバイ戦死

文字数 908文字

ユダヤ人たちはローマと同盟を組んだ。

けれどそれでローマがイスラエルの戦闘に即応できるわけではない。

ニカノルの戦死を聞いたデメトリオス1世ソテルは、改めて軍を送った。

前回さっさと引き上げてしまったバキデスとアルキモスのコンビだ。

しょうこりもなくまた来たか。

今度はバキデス自身が戦うんやろか。

彼らはエルサレムに対して陣を敷いた。

歩兵20,000と騎兵2,000を率いて出発し、ベレトに入った。

ユダは兵3,000を率いてエラサに陣を敷いていた。

しかし多くの者が恐れて脱走し、800人しか残らなかった。

単純計算で27倍ほどの戦力差ですわね。

この程度であれば、神の加護があれば平気でしょう。

しかし今回はそんな様子じゃない。

ユダ・マカバイ自身が兵を集められずに落胆してしまった。

彼は「太刀打ちできるかもしれない」と若干弱気な言葉を兵に投げた。

かもしれへんとか、大将に言われたないなあ。

もっと、どっしり構えて絶対勝つくらい言うてほしいわ。

兵たちもそう思ったかもしれないね。

いったん退いて、戦力を整えてから戦おうと進言した。

けれどユダ・マカバイは撤退よりも雄雄しく死にたいと言った。
滅びの美学にでも目覚めたか?

味方の兵まで巻き添えにするんは感心せえへんな。

敵の騎兵は二隊に分かれ、ユダに対峙した。

ユダはバキデスと軍の主力が右翼にいるのを見て、これを粉砕。

山のふもとにまで追い詰めた。

あらあら。

意外に善戦していましてよ。

これはひょっとして勝てるのかしら。

いや。

これはちょっと良うないで。

左翼にいた敵は右翼が粉砕されたのを見て、ユダの背後を襲った。
まあ、残念♪
聖書では「粉砕」と勇ましい言葉を使っている。

けれどこれは明らかに誘い込まれた結果だろうね。

そもそもの数が圧倒的や。

ユダが敵将狙いの一発逆転にかけるんも分かる。

選択肢が少ないっちゅうのは、相手に動きが読まれやすいってことや。

バキデスがわざわざ右翼に姿を見せたんも作戦やろな。

両軍とも多くの兵が傷つき倒れた。

ユダもまた戦死し、生き残った兵たちは逃げ去った。

ゲリラ戦で強さを見せたユダ・マカバイも敵の圧倒的な兵力に倒された。

イスラエルは次の指導者を彼の弟、ヨナタン・アフスと定めた。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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