2.律法学者エズラ

文字数 1,134文字

律法学者?

耳慣れへん言葉やな。

その原語は「書記官」

バビロン捕囚の時代から「律法学者」を意味するようになった。

「律法」は後のキリスト教でかなりややこしいことになる。

けれど今はまだそこまで深く考えても仕方ない。

「書記官」であり「モーセの律法」の専門家という理解で良いと思う。

エズラと言えば、先の『歴代誌』を書いた人物……

もしくはメンバーの一人でしたわね。

彼はアルタクセルクセス1世の時代にエルサレムに帰還したと考えられている。

神殿再建から60年後ほどのことだ。

エズラは心を込めて主の律法を調べ、実行した。

そして掟と法をイスラエルで教えた。

彼は律法学者であり、祭司であった。

律法学者は英語で「a scribe of the law」と訳される。

「scribe」は「写本筆写者」という意味でもある。

律法学者の重要な仕事は、聖書の写本なんだよ。

今みたいにコピー機もプリンターもあらへん。

グーテンベルクの活版印刷が考案されたんは1445年やからな。

それまではずっと書き写すしかあらへん。

しかし人から人に書き写していると、間違いが起きやすい。

スペルミスもあるし、ひどい時には数行すっ飛ばしたりもする。

だからそういうことのないように、筆写には様々な規則が定められていた。
例えば、どういうものがありまして?
シンプルなものだと、声を出して読んでから書き写すとか。

後から単語の数を数えなければいけないとかだね。

確かに、そういうのは大事やな。
間違いがあった場合の対処はけっこう厳しい。

どんなに小さいものでも、何か間違いがあればそのページは破棄される。

そしてもし全体で3つ以上間違いがあれば、原稿まるごとボツさ。

丸ごと……。
そして聖書を書き写すのは信仰の重要な場面でもある。

「神」の単語を書く前には必ずペン先を拭って整える。

もっと具体的に「YHWY」の名を記す時は、自身の身を清めなければならない。

単語一つにそこまでの手間をかけねばならないなんて。
単なる作業ではないっちゅうことやな。

写本作りがそのまま祈りになるんやろ。

エルサレムに着いたエズラは神殿で主に生贄を捧げた。

そこで彼は、多くのイスラエルの民が異民族の妻を娶っていることを知った。

エズラは神殿の前で祈り、涙を流した。

なんで泣いてんのや?
聖書において異邦人との婚姻は禁じられている。

『出エジプト記』や『申命記』にそうした記述があるね。

異邦人を娶れば、異教の神、偶像崇拝を招き入れてしまうかもしれない。

ソロモンが散々やらかしていましたわね。

後世、悪魔を使役したと言われるほどに!

そういうわけで、3ヶ月ほどかけてその異邦人妻と子供らを追放した。
は?
60年の捕囚時代は彼らにより強固な信仰をもたらした……。

『ルツ記』で見せた寛容はどこへやら。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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