3.ソロモンの治世

文字数 1,127文字

そう言えばあの白髪頭……

やのうて、総司令官のヨアブはどないしたんや。

ああ。

彼ならとっくに死んだよ。

ベナヤという戦士の手にかかってね。

マジか。
ソロモンは邪魔な政敵を次々に殺す。

前に話したダビデの子アドニヤ、それを補佐したヨアブ、

さらにダビデに対して日和見的だったシムイ。

ソロモンはダビデの遺言に従って次々と処刑した。

そしてそれを実際に行ったのがベナヤなのさ。

彼はヨアブに代わって新たな軍の頭(かしら)となった。

幾人もの反乱を呼んだ王の交代劇。

そうやすやすと済むはずもありません。

情けは無用。

確固とした地位を得るには多少の犠牲はやむを得ませんことよ。

お父さんとはえらい違いやな。

ダビデはなるべく殺さんように思ってたんに。

ことによると「遺言」っちゅうのも怪しい気がするで。
どうだろうね。

ともあれ政敵を排除したソロモンは更なる権力基盤の強化に乗り出す。

妻を娶ることにしたんだ。

相手はなんとエジプトの王ファラオの娘だった。
ソロモンはファラオの娘を娶った。

彼女をエルサレムに連れてきて、城壁の造営が終わるまで宮殿に留めた。

モーセの頃はエジプトの奴隷やってて、必死こいて逃げてきたやん。

それがまさかファラオの娘を娶るようになるなんてなあ。

名前は何て言うんやろ?
残念ながら名前は不明だよ。

ただ「ファラオの娘」とだけあるんだ。

とは言え彼女は特別な存在だったらしい。

ソロモンは700人の妻と300人の側妻(そばめ)を持つようになる。

けれどファラオの娘は彼女らとは別扱いされていた。

は?

700人の妻……?

側妻を合わせて1000人ですわね。
学者の中にはこれをエジプトの衰退と見なす人もいる。

逆に娘を与えるというのでイスラエルがエジプトの影響下にあると考える人もいる。

また、ある学者はこれを『出エジプト記』に照らして重要な意味を持つと考えている。

かつてエジプトの奴隷であったけれど、その子孫は今やファラオの義理の子であるとね。

色々あるけれど、多くの学者が支持する考えはもっと穏当なものだよ。

要するにダビデの強さはイスラエルの評判を高めたってことだね。

それゆえにファラオはイスラエルを侮りがたいと思った。

ほんで、娘差し出して仲良くしようやってことか?
まあ、それが普通の考え方やろな。
ソロモンは祭司や書記官、軍の頭(かしら)などを任命した。

また全イスラエルに12人の地方長官を置き、行政を担当させた。

国は大いに繁栄し、人々は増え、飲み食いして楽しんだ。

ダビデとは異なりソロモンは生まれながらにして王。

さぞかしわが世の春を謳歌(おうか)したことでしょう。

ソロモンは巨大で豪華な神殿を建てて神の櫃(ひつ)をそこに納めた。

民を祝福し、神と語らった。

そしてその名声は世界に知れ渡ることになる。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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