23.聖霊降臨祭(ペンテコステ)

エピソード文字数 1,397文字

さて、時はすでに正午ごろであった。全地を闇が覆い、三時まで続いた。

太陽は光を失った。聖所の垂れ幕が真ん中から二つに裂けた。

その時、イエスは声高く叫んで仰せになった、

「父よ、わたしの霊をみ手に委ねます」。

こう仰せになると、息を引き取られた。

イエスは死に、アリマタヤのヨセフによって埋葬された。

そして三日目に復活し弟子たちの前に現れる。

アリマタヤのヨセフは確か聖杯伝説の人やったな。

聖杯持ってイングランドに渡ったとか、そういう。

そのへんは機会があれば詳しく調べてみたいもんだね。

イエスの復活を弟子たちはにわかには信じられなかった。

何度もイエスが死者を蘇らせるのを見ていたはずだけれど。

最後の最後まで半信半疑だったってことかな。

また、イエスは、聖書を悟らせるために彼らの心を開いて、仰せになった、

「わたしは、わたしの父が約束されたものをあなた方に送る。

だから、いと高き所からの力を身に帯びるまでは、都に留まっていなさい」。

それからイエスは、両手を上げて弟子たちを祝福された。

そして祝福を授けられながら彼らから離れ、天へと上げられて行かれた。

約束されたもの?

何のことですの?

これは聖霊を遣わす約束のことだ。

『使徒言行録』に具体的に書かれている。

イエスが天に上げられた10日後に聖霊が使徒たちの上に留まる。

すると使徒たちは「他国のさまざまな言葉」で語り始めたという。

他国の様々な言葉って、要するに外国語ってことか。

聖霊の力で外国語習得とか、めっちゃ便利やん。

ほんやくこんにゃくみたいやわ。

そのまま色んな国の言葉、という意味で解釈する人もいる。

そうではなく、幻想的な言葉(ecstatic speech)だと言う人もいるんだ。

「言葉」と訳されているけれど、元はギリシア語のγλῶσσᾰ (glôssa)

これは「言語」の他に「舌」という意味も持っている。

まあ、急に外国語喋り始めるのも変やしな。

感極まった状態やっちゅう方が自然かもしれへん。

「さまざまな舌」っていまいち、ピンと来おへんけど。

この聖霊が降りて来た日を祝福して、キリスト教圏ではペンテコステが開かれる。

日本では聖霊降臨祭とか五旬祭とも呼ばれるね。

ペンテコステはギリシア語で「50番目」を意味する。

イースター、即ち復活祭から50日目に行われるんだ。

あら、それでは計算が合わないのではなくて?

イエスが昇天した10日後に聖霊が訪れたのでしょう。

50日後では随分と後ろ倒しにされておりますわ。

まさか復活から昇天までを40日と考えているわけでもありますまい。

実は聖霊が降りて来たのは、過越祭の50日後でね。

この日はシャブオットという、ユダヤ教の祭の最中なんだ。

シャブオットは出エジプトの49日後、神の律法を記念して3日間ほど続く。

なるほどなるほど。

つまり、50日の伝統だけ盗んで、キリスト教のものにしてしまったと。
この後、キリスト教は様々な伝統文化を自分たちの教義に当て込んでいく。

神話の世界ではよくあることさ。

例えばヒンドゥー教で、仏陀はヴィシュヌの化身ということになっている。

ライバルを自分たちの世界に含んでしまうことで勢力を強めていったんだ。

弟子たちはイエスを礼拝した後、大きな喜びのうちにエルサレムに帰った。

そして、絶えず神殿の境内にいて、神をほめたたえていた。

これで『ルカによる福音書』もしまいやな。

神殿に始まり神殿に終わる……、ええ閉じ方やね。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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