10.ハリー・ポッターと死の秘宝

エピソード文字数 1,364文字

ミカちゃんは「世界で最も読まれた本」が何か分かるかい?
そら簡単すぎる質問やで、サタニャエルくん。

聖書に決まっとる。

聖書すなわち本ってなくらいやからな。

その通りさ。

とは言え、実際にどれほどの数が出版されたのかは分からない。

参考資料によって推定値もバラバラだ。

ここでは少なめに見積もっても40億冊くらいだと考えておこう。

(アメリカ Publishing Perspectives 調べ)

その40億冊の内、果たしてどれほどの数が実際に読まれたのかしらね。

部屋の装飾品としての価値しか持たぬものも多かったことでしょう。

1番は分かったけど、2番とか3番はどんな本なんやろ。

やっぱしコーランが2番目なんかな。

イスラム教徒の人多いし。

2番目は毛沢東語録(正式には『毛主席語録』)だ。

老若男女問わず誰もがこの「赤い小さな本」を手にしていた。

聖書を40億と推定するところと同じとこの推定で8億2千万冊。

コーランは僅差の8億冊で3番目だね。

そしてこれらに迫る勢いの児童文学がある。

シリーズ累計5億冊以上。

映画化もされた『ハリー・ポッター』シリーズだ。

宗教でも政治でもないただの小説が5億とは。

驚くほかありませんわね。

実はシリーズ第7巻『ハリー・ポッターと死の秘宝』には聖書からの引用がある。

「最後の敵なる死もまた滅ぼされん」

(The last enemy that shall be destroyed is death)

これはハリーの両親が眠るポッター家の墓に刻まれた碑文なんだ。

『コリントの人々への第一の手紙』第15章26節

最後の敵として死が滅ぼされます。

シリーズで初めて聖書の引用があったと話題になったらしい。

そして『ハリー・ポッターと死の秘宝』でハリーは死んで生き返る場面がある。

その解釈は色々あるみたいだけれど、イエスの復活を連想するのは間違いない。

何故なら、前述の聖書の一節は、「復活」をテーマにした箇所だからだ。

聖書に馴染みの薄い日本人は気にせず見てしまうかもしれないけれどね。

ここ100年以内で世界一読まれた小説は聖書の影響を受けとるわけや。

やっぱ聖書はすごい本やで。

シリーズ原作者のJ.K.ローリングは「死」が重要なテーマだと明言している。

(J. K Rowling's interview with the Daily Telegraph 参照)

死という恐怖に打ち克つことが物語の軸にあるんだ。

死の呪いを放つ悪役のヴォルデモートは、その名を呼ぶことも恐ろしいとされる。

しかしハリーは名を呼ぶことで、恐怖に打ち克っているわけだ。

人は死ぬ。

これは避けられへん。

そういう恐怖を、普通は考えずに生きていくもんや。

宗教の多くは死といかに向き合うかを課題としております。

キリスト教の「復活信仰」もまた、死との向き合い方ではありましょう。

『ハリー・ポッターと死の秘宝』ではもう一つ引用がある。

ダンブルドア家の墓に刻まれた碑文。

「なんじの宝のある所には、なんじの心もあるべし」

(For where your treasure is, there will your heart be also)

これは『マタイによる福音書』第6章21節から来ている。

死の恐怖とつなげて考えれば、それに打ち克つ心こそ宝と言えるんじゃないかな。

勇気を持てってことさ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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