16.魔術師エリマ
文字数 1,463文字
さて、アンティオキアでは、そこの教会にバルナバ、
ニゲルと呼ばれるシメオン、キレネ人のルキオ、
領主ヘロデとともに育ったマナエン、そしてサウロなどの預言者たちがいた。
バルナバとサウロは聖霊によって送り出され、キプロス島に向けて船出した。
前回までがペトロの物語で、ここからサウロ、すなわちパウロの話になる。
アンティオキアは現在のトルコの都市アンタキヤ。
そこから船でキプロス島の都市サラミスにまで行って宣教を開始した。
ギリシアのサラミス島と混同しないように気を付けてね。
彼らは助手としてヨハネを連れていた。
パフォスまで来たとき、ユダヤ人の魔術師バルイエスという偽預言者に出会った。
魔術師エリマとも呼ばれる男で、地方総督セルギウス・パウルスのもとにいた。
バルイエス……。
「イエスの子」という意味ですわね。
これは何か特別な意図でもあるのかしら。
フランシスコ会聖書研究所の注釈では「よく用いられた人名」ということだけどね。
それにしても「イエス」の名は印象的だ。
ここに特別な何かを見てしまう人もいただろう。
そしてエリマ。
聖書の続きでは「魔術師」の意味とありますが。
それでは魔術師エリマは魔術師魔術師となってしまいませんこと?
エリマの語源はアラビア語のアリーム(alim)ではないかと言われている。
「賢い」とか「学んだ」という意味で、それが「魔術師」と訳されたんだろう。
そのエリマはキプロスで何しとるんやろ。
顧問魔術師みたいなもんかな。
まあ、そんなところだろう。
ユダヤ人として、信仰におけるアドバイザーだったと考えられている。
そこにバルナバとサウロが割り込んできたってわけだ。
あらまあ。
よその宗教から信徒を奪おうという魂胆ですのね。
セルギウスは神の言葉を聞きたいと思っていたが、エリマは二人に反対した。
しかし、パウロとも呼ばれるサウロは聖霊に満たされ、魔術師を睨みつけて言った、
「悪魔の子よ、お前は偽りと欺きに満ちた者、すべての正義の敵だ。
お前は目が見えなくなり、時の至るまで日の光が見えなくなるであろう」。
以降、彼の呼び名はパウロで通される。
エリマはキリスト教に抵抗しようとしたけれど、パウロに盲目にされてしまった。
それで苦しむエリマを見て、セルギウスは心打たれ、キリスト教徒となった。
聖人たちの活躍を記した13世紀完成の書物『黄金伝説』にもエリマは登場する。
それによると、彼はユダヤ人や異教徒たちを煽動してバルナバに刃向かおうとした。
それがまんまと返り討ちにあってしまったってところかな。
元々はキリスト教の迫害者やったサウロが立派になって……。
いや、これからはパウロって呼んだ方がええんかな。
パウロはエリマのことを「悪魔の子」と呼んでいる。
しかしこれだと「イエスの子」を「悪魔の子」と呼んだことになってしまう。
それを嫌ってか、アラム語訳だとバルイエスはバルシュマ(Bar Shuma)とされた。
バルシュマは「名前の子」という意味だと言われていて、暗示的な感じにされているね。
(Jewish Encyclopedia "BAR JESUS" 参照)
細かいところにこだわりますこと。
まあ、連中はわたくしの名を「蠅の王」とした前科もございますものね。
そのあたり、気になって仕方ないのでしょう。
その後、ヨハネはエルサレムへと戻った。
そしてパウロの一行はピシディアのアンティオキアへとたどり着く。
出発の地シリアのアンティオキアとは別のアンティオキアだから混同しないようにね。
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