3.高慢なる娘シオン

文字数 1,203文字

そろそろ『イザヤ書』を順に見ていこう。
よろしくたのむで。
『イザヤ書』には「娘シオン」という表現が出てくる。

これはシオンという名の娘がいた、というわけじゃない。

エルサレム地方の地名で、イスラエル全体の形容詞でもある。

シオニズムという言葉の由来でもあるね。

シオニズムとは、イスラエルの再建、ユダヤ文化復興の運動を意味する。

日本の方々には、『機動戦士ガンダム』の方が馴染み深いでしょう。

ジオン公国という名前の由来がまさにこのシオン(英語表記でZION)でしてよ。

主は仰せになる、

「シオンの娘たちは高慢で、首を伸ばし、

色目を使い、足の飾りの音を立てて、小股で歩く。

主は、シオンの娘たちの頭の頂をかさぶただらけにし、

主はその額を剥き出しにされる」。

ここで言う「シオンの娘」っちゅうのも個人やのうて、

イスラエル全体のことなんかな。

そうだね。

ここではシオンに住む娘たちと読めるけれど。

少し後ろ箇所ではシオン自身に語り掛ける表現がされている。

シオンよ、お前の男たちは剣に倒れ、勇士らは戦いに倒れる。
戦争に負ける、ということでしょう。

国家が驕り高ぶれば、国力が低下し、外国に滅ぼされる。

よくある話ですわ。

奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。 

猛き者もつひにはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。

実力以上の自信は身を亡ぼす種や。

ちゅうて、あんまり低く見ても外国からは軽んじられる。

是々非々は大変やけど、うまいことバランス取らなあかん。

わたしは歌おう、わたしの愛する者のために

わたしの愛する者のぶどう園の歌を。

まことに、万軍の主のぶどう園とは、イスラエルの家。

主が喜んで植えられたのはユダの人。

主は正しい裁きを期待されたのに、見よ、流血、

正義を期待されたのに、見よ、苦悩の叫び。

「愛する者」は「万軍の主」であり、神のことだね。

そして「ぶどう園」とは「イスラエルの家」、イスラエルそのものを意味する。

しかしそのイスラエルには苦悩の叫びが満ちている。

いたるところに不満がある、ということかしら。

つまりこの書で語られているのは、政治に対する非難。

為政者に対する苦情、ということ……?

イスラエルの民は主の言葉を侮った。

この故に、主は遠くにいる諸国に旗を揚げ、地の果てにいるそれに口笛を吹く。

見よ、それは急いで速やかにやって来る。

外患誘致やないか。
民が言うことを聞かないので、またも滅ぼそうとお企みかしら。
確かに神が敵を呼び寄せると書いているけどね。

国が乱れていればいずれ外国に攻められるという警告だろうさ。

鎌倉時代の僧、日蓮の『立正安国論』も似た感じだね。

『立正安国論』は浄土宗を邪法と言って非難し、法華経こそが正法だと語る。

そしてこれを放置すれば内乱と外国からの侵略によって滅ぶとした。

その後、元寇が起こるのだから、困ったものだよまったく。
このままやとあかん。

そういう危機意識を持たせるとこから『イザヤ書』は始まるわけやな。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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