9.羊の門

エピソード文字数 1,042文字

よくよくあなた方に言っておく。

わたしは羊の門である。

わたしより先に来た者はみな、盗人であり強盗である。

しかし、羊は彼らの言うことを聞かなかった。

わたしは門である。

わたしを通って入るなら、その人は救われる。

また、出入りして、牧草を見つける。

羊の門と言えば……。

以前、『ネヘミヤ記』で話が出ておりましたわね。

エルサレム城壁、北側の門がそのような名でした。

羊の門近くにはベテスダの池がある。

『ヨハネによる福音書』で、イエスが病人を癒やしたという話のある場所だ。

また、池の南側に第二の池が設けられて、そこで羊を洗っていたという伝説がある。

実際には生活用水に使っていた深さ13メートルのダムだから、あり得ないけどね。

でもイエス様自身がその羊の門なわけあらへんやろ?

これも何かのたとえ話なんやろか。

『ネヘミヤ記』では大祭司エルヤシブが羊の門から再建を始めた。

つまりここを起点にしてエルサレムの再建が始まったわけだ。

イエスが羊の門とは、彼を起点にして神の国を建てる、ということかもしれない。

また、イエスは「羊の門」であると言い、後にただの「門」だとも言っている。

「門」そのものにも何かしらの意味があるんだろう。

元のギリシア語ではシーラ(θύρα)ですのね。

扉とか入口といった意味でしてよ。

そこを「出入り」すると言っているね。

「出入りする」というのはヘブライ語の慣用句みたいなもんだ。

神に祝福された平穏な日常生活を意味する。

『申命記』第28章6節

あなたは入る時も祝福され、出ていく時も祝福される。

『詩編』第121章8節

主はあなたの出入りを見守ってくださる、今からとこしえに。

イエス様と一緒におることが、神に祝福された日常ってことやな。
そしてイエスは続けて、自身を「善い羊飼い」だと言う。

それは命がけで羊を守る羊飼いだ。

聖書において羊飼いと言えば、アベル、モーセ、そしてダビデが有名だね。

伝説上の王政ローマ初代王ロームルスもまた羊飼いとして育ちましたわね。

彼は軍神マルスの子と言われております。

ローマ支配下のエルサレムであれば、そのような話も耳にしているのではなくて?

もっと言えば、エジプト神話のオシリスも羊飼いの神だ。

メソポタミア神話のタンムーズ(ドゥムジ)もそう。

そしてユダヤの伝統においても、羊飼いは神の代名詞となる。

『詩編』第23章1-3節

主はわたしの牧者。わたしには乏しいことがない。

主はわたしを緑の牧場に憩わせ、わたしを静かな水辺に伴い、

魂を生き返らせ、み名にふさわしく正しい道に導かれる。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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