18.ベルゼブル論争

文字数 1,213文字

ある安息日に、イエスは麦畑の中をお通りになった。

弟子たちは空腹であったので、穂を摘んで食べ始めた。

これを見たファリサイ派の人々はイエスに言った、

「ご覧なさい。あなたの弟子たちは、安息日に許されないことをしています」。

ユダヤ伝承では麦を摘むことは刈り入れ作業に相当する。

さらにそれを手で揉めば脱穀作業となる。

いずれも安息日には禁じられた労働に含まれているんだ。

なんとまあ、細かくみみっちいこと。

他に食べる物が見当たらない時は飢えて死ねと仰るのかしら。

それに対しイエスはダビデの例を挙げて反論した。

かつてダビデが王サウルから逃れた際、聖別されたパンを兵士たちと食べた。

聖別のパンとは、祭司以外に食べてはならないものとされていた。

『レビ記』第24章9節

これはアロンとその子らのものとなる。

彼らはこれを聖なる場所で食べなければならない。

これは主にささげる火による献げ物のうち、

彼らのために定められた取り分であり、最も聖なるものだからである。

いくら律法に書かれとることでも、がちがちに守らなあかんもんでもない。

臨機応変に対処することも大事やで。

さらにイエスは「律法を読んだことがないのか」と挑発的に語る。

祭司は安息日に神殿で安息日を破っても罪にならない。

そしてイエスこそは神殿よりも偉大なものだ。

ゆえにイエスの傍で安息日を破ることは問題ないというロジックさ。

『民数記』第28章9節

安息日には、一歳の疵のない雄の子羊二匹と、

穀物の供え物として油を混ぜた善い小麦粉十分の二エファと、

それに伴うぶどう酒の供え物をささげる。

子羊を絞めて、捧げものとして火を起こす。

これらの行為は労働であり、祭司は安息日にそれを行う。

前にも見たけれど、イエスは律法学者と対立しても、律法は守る。

むしろ他の人々よりもより律法を成就させると言う。

他に、安息日の医療活動は許されるのかという問いもあった。

イエスは安息日に子羊が穴に落ちたら助けないのかと言って返した。

善を行うことは安息日であっても許されているというわけだ。

杓子定規にルールを守るわけやない。

せや言うて、ルールを蔑ろにもせえへん。

現実問題に応じて適時対処していったんや。

このように論理でイエスにファリサイ派は勝てなかった。

すると彼らはとんでもないことを言い始めた。

ファリサイ派の人々は、

「悪霊の頭ベルゼブルによるのでなければ、

この男に悪霊を追い出せるわけがない」と言った。

ベルゼブルはベルゼブブのギリシア語形ですわね。

わたくしこと、バアル・ゼブルを意味します。

しかしながら。

イエスに何か協力した覚えなどございませんことよ。

この指摘はファリサイ派の墓穴だった。

イエスはファリサイ派の弟子たちも悪魔祓いを行っていることに言及した。

彼らはいったいどうやって悪霊を追い出しているのか、とね。

その場の思い付きで批判するからや。

全体の整合性が損なわれてあっぷあっぷしてしまう。

これもまた、どこぞで見た光景、ですわね。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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