3.タリタ・クム(娘よ、目覚めよ)

文字数 995文字

会堂司のヤイロがイエスにひれ伏して懇願した、

「わたしの幼い娘が死にかかっています。

どうか、おいでになって娘の上に手を置いてやってください。

そうすれば、娘は救われ、生きるでしょう」。

そこで、イエスはヤイロと一緒に行かれた。

会堂はシナゴーグのことだ。

ヤイロはそこの管理を任された人物だった。

イエス様に病気を治してほしいんやな。

いつも通りの、お茶の子さいさいや。

少々小腹がすいてきましたかしら。

ここはこのビヨンデッタがとっておきのお茶菓子をご用意……。

あかん。
まあ、ミカちゃんの言う通り、病人を癒やすことは簡単だ。

イエスがそうした力を持っていることも知れ渡っていたんだろう。

多くの群衆がイエスに群がり、付いて行った。

その中に、十二年間、出血病を患っている女がいたと言う。
出血病て……。

血がだらだら流れる病気なんか?

おそらく「出血病」とは月経過多のことだ。

月経過多とは経血量が異常に多い状態を言う。

もしくは、子宮筋腫ではないかという説もある。

子宮筋腫の大半は無症候性だけれど、不正出血の原因になったりもする。

即座に命にかかわらずとも、血を失えば力も出ません。

長く苦しんだことでしょう。

彼女はイエスの衣に触れれば病が治ると期待した。

そして実際に触れて、病気は治った。

イエスは力が自分から流れ出たことに気づいて、自分に触れたのは誰かと聞いた。

彼女はイエスのもとにひれ伏し、すべてをありのままに申し上げた。

そこでイエスは仰せになった、

「娘よ、あなたの信仰があなたを救った。

安心して行きなさい。もうこの病気に悩むことはない」。

もののついでのように病人を癒やしてまわるイエス。

しかし彼がヤイロの家にたどりつく前に、彼の娘は死んだと告げられる。

死にかけているものを優先し、急ぐべきでしたわね。
まあ、イエスのことですから、どうせその娘も生き返らせるのでしょうけれど。
もちろんだとも。

イエスは少女の手を取って「タリタ・クム」と言った。

その意味は「少女よ、わたしはあなたに言う。起きなさい」だと聖書は語る。

そんな短い言葉やのに、そんな長い意味に訳されるんか?
意味を正確に翻訳しようとしたんだろう。

元はアラム語で「タリタ」は「若い女」、「クム」は「起きる」を意味する。

もっと雑に訳せば「起きろ小娘」ってところかな。

イエス様が俺様キャラに……。

そういうのも、嫌いやないで。

すると、少女はただちに起き上がって、歩き回った。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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