5.民の反逆

文字数 1,414文字

コラは集会で選ばれた指導者たちと共に、モーセとアロンに反逆した。

「あなたたちは分を超えている。なぜ神様の集会の上に立つのか」

戦争で負けたら求心力はがた落ちや。

それがたとえ、当人のせいやのうてもな。

そもそもモーセ自身は預言者に過ぎないからね。

神様の声を聞いて、それを民に伝える仲介役さ。

モーセ自身の力を評価していない人にすれば、何を偉そうにと反発したくもなる。
ダタンとアビラムもモーセに反逆した。

約束した土地を与えず荒れ野に連れて来たことへの不平。

そして神様の預言者として人の上に君臨しようとすることへの不信。

そうしたことを語り、約束の地について行くことを拒否した。

ひとり、またひとりと離れていく。

これはもうジリ貧やな。

反逆者の思うままにすると、よけいに民をまとめられなくなる。

そうしたらカナンの地どころじゃない。

だからここは強硬手段に出るしかなかった。

神様がモーセとアロンに言った。

「彼らを滅ぼす」

モーセとアロンはひれ伏して言った。

「あなたは一人が罪を犯すと、全会衆に怒りを下されるのですか」

神様、人を滅ぼしたくてうずうずしとるやろ。

洪水起こしてがらがらぽん、したいんやろなあ。

そう何度も滅ぼされて、一からやり直しなんてかなわないからね。

モーセとアロンのとりなしで、滅ぼすのは諦めてもらった。

でも、見せしめは必要なんだ。

大地は口を開けて、コラに属する者、持ち物全てを呑み込んだ。

彼らに属する物はすべて、生きながら陰府(よみ)に落ちた。

反逆者には死を。

厳しい時代の定めやな。

イスラエルの子ら、全会衆はモーセとアロンに不平を言った。

「あなたたちは神様の民を殺した」

神様はモーセに告げた。

「わたしは彼らをただちに滅ぼし尽くす」

神……。
そしてすぐに疫病が発生する。

神様の怒りによって起きたことだね。

モーセとアロンはそれを食い止めようと、贖(あがな)いの儀式を始める。

それで疫病はおさまるのだけれど、14,700人もの死者が出てしまった。

イスラエルの子らはモーセにこう言った。

「わたしたちは死に絶えてしまいます」

「わたしたちはみな、滅んでしまいます」

いよいよ追い詰められて、不平言うてる場合でもないわな。

不平やのうて、嘆きやでこれは。

イスラエルの子らはツィンの荒れ野に着き、民はカデシュに留まった。

ミリアムはそこで死に、その地に葬られた。

モーセとアロンの姉、ミリアムがここで死ぬ。

聖書には書かれていないけれど、モーセとアロンはきっと悲しんだろうね。

そしてその悲しみがきっと、モーセに心の弱さをもたらした。

それはモーセすらも神を疑ってしまうという弱さだった。

水を求める民の声に応じてモーセとアロンは神の言葉を聞いた。

「岩に命じて水を出させよ」

モーセは集会を岩の前に召集して言った。

「反逆する者たちよ聞け。わたしたちはこの岩から水を湧き出させることができる」

モーセは杖で岩を二度打った。

すると水が豊かに出てきた。

神様はモーセとアロンに告げた。

「お前たちは私を信じようとしなかった」

いやいや、ちゃんと言われた通りにやったやん。

何がご不満やねん。

厳密には言われた通りにやらなかったんだ。

神様は“岩に”命じろと言った。

けれどモーセは民に声をかけてしまった。

そして一度ではなく二度も岩を叩いた。

一度では心もとないという不安の表れだったのさ。

めちゃくちゃ厳しいな。

災難と奇跡によって反逆はおさまるわけだ。

実際、「それどころじゃない」という感じがするね。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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