41.聖杯伝説

文字数 1,160文字

人はいつか必ず死ぬ。

その不安や恐怖を抑えることは出来ても、逃れることは出来ない。

それを覆すのがイエス自身の復活だ。

彼は「自分は三日の後に復活する」と宣言していた。

復活など、すでに何度も為していたではありませんか。

今さらイエス一人が復活したところで、何ということもございません。

これまで見てきた復活とは根本的に異なる。

人々は復活しても、いずれまた死にゆく存在なんだ。

奇跡も一時のものに過ぎない。

しかし、イエスの復活は違う。

彼は復活後、決して死ぬことはない。

その存在は永遠となる。

夕方になると、ヨセフというアリマタヤの金持ちが来た。

彼もイエスの弟子であり、ピラトにイエスの体の下げ渡しを願い出た。

ヨセフはイエスの体を受け取り、清らかな亜麻布に包み、

岩に掘った自分の新しい墓に納め、入口に大きな石を転がし、立ち去った。

そこにはマグダラのマリアと、もう一人のマリアが墓に向かい座っていた。

アリマタヤのヨセフ……。

いったい何者なんや。

弟子はみんな逃げ出したと思っとったわ。

彼の素性は福音書によって若干異なる。

『マタイ』では「金持ち」と言い、『マルコ』だと「立派な議員」とされる。

いずれにせよ、それなりの地位ある人物だったんだろう。

この「金持ち」の下りは『イザヤ書』になぞるものかもしれない。

『イザヤ書』第53章9節

彼は不正を働かず、その口には偽りがなかったが、

その墓は悪者どもとともに、その塚は金持ちとともにされた。

アリマタヤのヨセフ?

どこかで聞いた名ですわね。

アリマタヤのヨセフには二つの伝説がある。

一つは、彼がイングランドにおけるキリスト教の創始者であるというもの。

そしてもう一つは、彼が聖杯をイングランドにもたらしたというものだ。

聖杯!

あの何でも願いを叶えてくれる言う、素敵アイテム!

聖杯はイエスが最後の晩餐で用いたと言われるあれですわね。

いわゆる「聖杯伝説」ではイエスの血をその杯で受けたとか。

であればイエスの死後まで近くにいた弟子のヨセフが適任かしら。

物語を広めたのはフランスの詩人ロベール・ド・ボロン。

12世紀から13世紀のことだ。

彼の詩の中でアリマタヤのヨセフは協力者に聖杯を託した。

そしてそれがイングランドにもたらされたと言う。

もっとも、ヨセフ自身がイングランドに行ったか行かなかったかは不明瞭だ。

ヨセフ自身が渡ったという話もある。

『ランスロ=聖杯サイクル』ではヨセフの子、ヨセフスだとしている。

そしてイメージはどんどん膨らんでいった。

14世紀の僧侶にして年代記作家、通称グラストンベリーのジョンは驚きの主張をした。

アーサー王はヨセフの子孫である、とね。

アリマタヤのヨセフすごいやん。

イエス様にとってのダビデみたいなもんか。

後世生まれた文化の津々浦々に聖書が見え隠れしとる。

今さらやけど、その影響力は計り知れんな。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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