3.ヨハネの黙示録の四騎士

エピソード文字数 1,801文字

わたしはまた、玉座に座っておられる方の右の手に巻物があるのを見た。

それは、内側にも裏側にも文字が記されており、七つの封印が施されていた。

「玉座に座っておられる方」とはもちろん神のことだ。

その右手に巻物があり、七つの封印がされていたという。

ちなみに、古代ローマでは、遺言書を七つの封印で封じる慣習があったらしい。

大事なもんやからな。

その時が来るまでに書き換えられたらかなわん。

しかし神の巻物の封印を解くことが出来る者も限られている。

『黙示録』では「子羊」と言い表されるイエス・キリストその人だ。

イメージしやすい「七つの封印」を用いることで重要さを表現したのかしら。

もったいぶった話ですこと。

「もったいぶった」話がまだまだ続くよ。

巻物の封印を一つ解くごとに色んなものが現れてくるんだ。

特に第一から第四の封印を解くごとに「馬にまたがった者」が出てくる。

彼らを日本では「ヨハネの黙示録の四騎士」と言い表している。

19世紀ロシア帝国の画家ヴィクトル・ヴァスネツォフによる『黙示録の騎士』

ロシア語の原題ではヴォイニ・アパカリプシサ(Воины Апокалипсиса)

ヴォイニは「戦士」とか「兵士」といった意味の言葉だね。

右から順に第一の封印から第四の封印で解き放たれた者たちさ。

めっちゃ、かっこええやん。

特に赤い馬に乗ってる奴が強そうで好きやわ。

わたくしは四番目の騎士が好みでしてよ。

なんだかお友達になれそう。

それはどうかな。

神の軍勢とあれば、どれも僕ら悪魔にとっては敵対者だ。

ともあれ彼らの特徴について『黙示録』を確認してみよう。

見よ、一頭の白い馬が現れた。

それにまたがっている者は弓を持っていた。

彼に冠が与えられた。

彼は勝利者であって、さらに勝利を得ようとして出ていった。

弓と冠か。

絵でも感じたけど、王様みたいないで立ちやな。

2世紀頃の司祭エイレナイオスは白い馬に乗るのはイエスだと解釈した。

神の国の王となれば、それは確かにイエス・キリストのことだろうね。

火のように赤い馬が出てきた。

それにまたがっている者には、地上から平和を奪い去る力が与えられた。

これは、人々が互いに殺し合うためである。

また一振りの大きな剣が彼に授けられた。

随分と過激ですわね。

草どもに殺し合いをさせるべく現れたなど。

赤い馬にまたがり剣を持つ彼は、戦争または戦争の始まりを象徴していると言う。

後世、騎士たちの紋章において剣の意匠はそうした意味合いを含んでいた。

例えばジャンヌ・ダルクの紋章なんかは真ん中に剣で上向きになっている。

Coat of Arms of Jeanne d'Arc (Joan of Arc)
見よ、一頭の黒い馬が現れた。

それにまたがっている者は、手に天秤を持っていた。

「小麦一升は一デナリオン、大麦三升は一デナリオン。

オリーブ油とぶどう酒には害を加えてはならない」。

次は黒い馬か。

せやけど、これ何の話なんかよう分からんな。

一デナリオンは、労働者が一日働いて得る賃金だ。

そしてここで言う「一升」は約1.1リットル。

つまり、一日働いてもお腹いっぱいも食べられない、飢饉を意味している。

オリーブ油とぶどう酒に害が無いというのは、いくつか解釈がある。

飢饉と言えばイナゴの害があるけれど、オリーブもぶどうも受けにくい。

麦は被害を受けて価格高騰するけれど、オリーブとぶどうは関係無かったとか。

キリスト教の儀式でオリーブ油とぶどう酒はよく使うから除外したという話もある。

見よ、一頭の青白い馬が現れた。

それにまたがっている者の名は「死」であり、その後ろには陰府(よみ)が従っていた。

彼らには、剣と飢饉と死病と地上の野獣によって、地上の四分の一の人々を殺す権力が与えられた。

死は「タナトス(Thanatos)」、陰府は「ハデス(hadēs)」ですわね。

「青白い」と訳されていますが、ギリシア語では「クロロス(chlōros)」

「灰色」とか「淡い緑」などの訳もありましてよ。

要するに、幽霊のごときうすぼんやりした見た目ということかしら。

「彼ら」ってのはつまり、四騎士全員のことか?

剣と飢饉はそれぞれ2番目と3番目やしな。

もしくは「彼ら」はタナトスとハデスだとも言う。

どっちとも取れるけど、個人的にはミカちゃんの意見に賛成かな。

そうしないと、2番目と3番目の立つ瀬がないからね。

しかし、急に終末感出てきよったな。
まだまだ、序の口でしてよ。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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