9.邪神たちの起源

文字数 1,148文字

イスラエルの子らはまた神様の目に悪と思われることを行った。

彼らはバアル、アシュトレト、アラム人の神々、シドン人の神々、

モアブ人の神々、アンモンの子らの神々、ペリシテ人の神々に仕えた。

神様は怒り、イスラエルの子らはアンモンの子らに支配された。

邪教の神のオンパレードやないか。
バアルとアシュトレトは常連さんだね。
人気者は忙しいこと。
アラム人の神々というのはたぶん、メソポタミアの神々だと思う。

有名どころで月の神ナンナ、太陽の神シャマシュ。

そしてナンナの娘でシャマシュの妹、愛の神イナンナ(イシュタル)

彼女はローマ神話のヴィーナスとも同一視されるね。

日本でも人気の神様おるやんけ。

そいつら全部敵に回そうとか、なかなか根性あるなあ。

シドン人もバアルを崇拝したけれど、守護神エシュムンがいる。

エシュムンはアシュトレトと類似した女神だと言われているね。

モアブ人の主神はケモシュ。

メシャ碑文に「ケモシュはマリクである」と書かれている。

マリクとはすなわち王のこと。

アンモン人の神はモレク。

以前紹介した、子供を生贄に捧げる神だね。

ペリシテ人もバアルとアシュトレトを崇拝した。

けれど彼らを特徴付ける神はダゴン。

ダゴンは「穀物」を意味する言葉で豊穣の神なんだ。

ぎょうさんおるなあ。

そんなん覚え切れへんで。

せやけど、ダゴンってなんか海の神様とかやなかった?

どっかでそんな話を聞いたような。

さすがだねミカちゃん。

その通りで、ダゴンは長らく海神とされてきたんだ。

ミルトンの『失楽園』でも「海の怪物」扱いになっている。

架空神話のクトゥルフにおいても半漁人たちが崇める神でしたわね。

ダゴン秘密教団なんてものが組織されているのだとか。

これはヘブライ語のダグ(魚)と混同されたための誤解だった。

それを最初、1928年に指摘したのはハルトムート・シュメーケル。

ドイツ人のアッシリア及び聖書批評学者だよ。

ルプレヒト・カール大学ハイデルベルクから『Der Gott Dagan』という本を出している。

つまりあれか。

長い長い誤解の末に、誤解を起源にした物語も生まれたってことなんやな。

下手すると色んなもんをひっくり返しそうやな。

大丈夫なんか?

仮に起源が間違っていたとしても、そんなのはたいした問題じゃないのさ。

クトゥルフだってたまたまダゴンを選んだだけで、別のものを使っても構わない。

悪魔を示す666という獣の数字は有名だけれど、あれは616が正しいとする説がある。
その説が出た時、悪魔崇拝者はこう言ったらしい。

「たとえ616が真実であったとしても、長く人々を恐怖させた数字は666である」と。

それもそうですわね。
それにしても、こんだけぎょうさん神様がおったら目移りするのも分かるなあ。

楽しそうで、ええやん。

お姉さま。

浮気はご法度ですのよ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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