2.神の戦車メルカバー

文字数 1,225文字

突然、北から吹き寄せてくる一陣の嵐が目に留まった。

巨大な雲が閃光を放ち、その周囲は光輝に包まれていた。

そのただ中、火のただ中には琥珀色に輝くものがあった。

まったく神は壮大な演出がお好きですこと。
『エゼキエル書』の始め、神が現れる場面だね。

こんな風に雲から出てくる表現は『出エジプト記』なんかでも見られる。

『出エジプト記』第16章10節

アロンがイスラエルの子らの全会衆に語った時である。

彼らが荒れ野の方を向くと、見よ、主の栄光が雲の中に現れた。

『出エジプト記』第19章16節

三日目になると、山の上の雷鳴と稲妻と厚い雲があり、

角笛が非常に強く鳴り響いたので、宿営地にいた民はみな震えた。

びしっと決めるときは決める。

それでこそ神様やからな。

『エゼキエル書』では神と共に、琥珀色に輝く何者かが現れた。

それはメルカバー(戦車)と呼ばれるんだけど……。

その姿について聖書の記載を確認してみよう。

中央に四つの生き物のようなものがいて、次のような外観をしていた。

・人間のようである。


・それぞれ四つの顔を持つ。

 一つは人間の顔。

 一つは獅子の顔。(右側)

 一つは牛の顔。(左側)

 一つは鷲の顔。


・それぞれ四つの翼を持つ。

 翼の下に人間の手。

 四つの生き物の翼は互いに重なり合う。

 進むときは向きを変えず、それぞれまっすぐ進む。

 (東西南北を示す)


・足の裏は子牛のものに似て、青銅のように光る。


・生き物の傍らには車輪があり、地に接している。

 緑柱石のようで、四つとも同じ形。

 車輪の中に車輪があるような外観。

これは……、なんとも形容しがたいですわね。
こんなん、びびるわ。
一番上にいるのが神だね。

神はこんな仰々しい現れ方をして、エゼキエルに巻物を渡した。

そこには哀歌、嘆き、呪いが書き連ねられていたという。

それを持ってエゼキエルに「イスラエルの家の見張り」を命じた。

神に力のあることを見せつけ、勇気づけでもしたのかしら。

時には力を示すことで信仰を強めるというのも、まあ悪くはありません。

力の象徴という意味では、現代のイスラエルにも引き継がれているね。

彼らは1970年代にイギリス戦車センチュリオンを改造して戦車を造り始めた。

その名をメルカバと言う。

ほう。

かっこええやん。

ラトルン戦車博物館に展示されているプロトタイプだね。

その後も開発は進み、2020年にはメルカバMk 4 Barakの運用試験が始まる予定だ。

さらにメルカバーはキリスト教において、福音書記者の象徴とされた。

具体的には、人はマタイ、獅子はマルコ、牛はルカ、鷲はヨハネだ。

さらに、それぞれの生き物はイエスの変遷として解釈される。

まず人は神の化身として現れたイエス・キリストを指す。

そして牛は磔刑による犠牲、獅子は王としての復活を意味する。

最後に鷲は神的存在としての昇天を表すとされているんだ。

ユダヤ教がキリスト教に与える影響は半端ないな。

イエス・キリスト自身、イスラエル生まれのユダヤ人やから当然なんやけど。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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