6.プロト共産主義

エピソード文字数 1,261文字

信者たちは、誰一人その持ち物を自分のものと言わず、一切のものを共有にしていた。

彼らの中に乏しい者はなく、土地や家を持っている者はみな、それを売った。

そして各々の必要に応じて、分け与えた。

これはこれは。

共産主義か何かかしら?

私有財産の禁止ではなくて?

これは決して強制ではない、ということになっている。

けれどビヨンデッタが感じることは大きく外れていない。

キリスト教無政府主義者たちは、使徒による教会はプロト共産主義だと考えている。

この場面はその証拠ってわけだ。

ところが、アナニアという男は、その妻サフィラとともに、

地所を売ったが、妻も承知のうえ、代金をごまかし、

その一部を携えて来て、使徒たちの足元に置いた。

ごまかしって、例えば100万で売れたもんを50万でしたとか言うんか?

そんなことせんでも、50万は自分のもんで、50万差し出します言うたらええのに。

ペトロもそう指摘した。

アナニアを「心をサタンに奪われて聖霊を欺いた」と指摘し、

「人ではなく神を欺いた」と言って非難したんだ。

そうは言っても、自分だけ私有財産を持てる雰囲気ではないのでは?

心と魂を一つにした信者たちの中でそれは恐ろしいことでしょう。

ならば嘘をついてでも財産を隠すより他ありません。

実際のところ、半強制なのかどうかは分からない。

しかしアナニアとサフィラは事実としてごまかしてしまった。

二人は順にペトロに会い、その場で倒れて死んでしまったという。

死んだ?

言うて自分の金やし、そこまですることちゃうやろ。

実はこれと似たようなことが『ヨシュア記』でもあったよね。

憶えているかな、分捕り品をごまかしてしまった、アカンのことを。

そんな奴もおったな。

神様が「奉納物として滅ぼし尽くせ」言うたのに、自分のものにしようとした。

あれは元々アカンの所有物ってわけでもないから話違う気ぃするけれど。

所有物について神様を欺いたってとこが似てるかもしれへん。

神を欺くことはさほどに罪深いと。

しかし、どうにも釈然といたしませんわ。

だって今まで、罪深い者たちを救うのだと散々主張してきたでしょう?

それが急に罪に対して死を与えるほどの怒りを示すなど。

この慈悲とかけ離れた神の裁きはいったい何事かしら。

聖書学者のマシュー・スキナーは「ブラックジョーク」だと言っているね。

ただし、現代の僕らには笑いどころがつかめない。

信者たちにこういうことをしてはいけない、と語る小話と考えれば納得しやすい。

(Matthew L. Skinner, On Why People do NOT Give Money to Their Church 参照)

注)記事では「ブラックジョーク」ではなく「絞首台のユーモア(gallows humor)」

つまりこれは実際に起こったこと言うよか、笑い話の一つってことか。

そっちの方がええ気がするなあ。

さすがにこんなんで殺すとか、神様おっとろしいわ。

作り話であってほしいところですわね。

神がいないとすれば、これは内部ゲバルトを暗示している……。

そのように読めてしまえませんこと?

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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