7.愛は死のごとく強き

エピソード文字数 1,089文字

(花嫁)

わたしを印章のように、あなたの胸に、

印章のように、あなたの腕につけていてください。

愛は死のように強く、嫉妬は陰府(よみ)のように無慈悲だからです。

「古代の王の印章、ごみ捨て場の遺跡から発見 エルサレム」

2015年12月CNN.co.jpの記事だよ。

画像は「発掘された紀元前8世紀の王の印章=エイラト・マザル氏提供」とある。

ソロモンのものではないけれどね。

古代ヘブライ語で「ユダ王アハズ(の子)ヒゼキヤのもの」と書かれている。

1cmってちっこいな。

うっかり失くしてしもたりせんのやろか。

そういう懸念はもちろんあったろうね。

だから当時の人たちは印章を首や腕に飾りのように身につけていた。

花嫁の言葉はそういう背景によるのさ。

飾りとするには、さほど優雅な意匠でもございませんわね。

むしろ素朴と言って差し支えないのではなくって?

大事なのは質やからな。
(花嫁)

嫉妬の矢は火の矢。

その炎は凄まじい炎。

よく分かる言葉ですわね。

わたくしが抱くお姉さまへの情熱もまさに炎。

「凄まじい炎」と訳される箇所はヘブライ語で「シャルヘベットゥヤー」

最後の「ヤー」の箇所は神を意味しているとも言われる。

つまりこれは神の炎、雷のこととも読めるね。

神様の火か。

そんなん、消せるわけあらへんな。

炎みたいなってのもすごいけど。

愛が死のように強いってのも、迫力ある表現やん。

ざっくり言ってしまえば死ぬほど好きってことだね。

慣用的ではなく、本気の死だけど。

想い人のためであれば死をも厭わない。

盲目的な情念でもある。

(花嫁)

もし人が自分の全財産を投げ出して、愛を手に収めようとしても、

ただ、あざけりを受けるだけです。

そしてその愛は決して金で買えるものではない。

そんなことをしようとするなら、あざ笑ってやろうと言う。

結構。

女たるもの、かくあれかし。

自らの力にて立ち、金の力に惑わされぬ愛を抱いて死ぬが本望。

せやけど、お金は大事やで。

ほどほどにな。

命をかけるとまで言うほどの愛だ。

生き方によって示されるべきだろうね。

余談だけど、『雅歌』の中でも特に情熱的なこの箇所を、

かつて世界的に人気を博したイスラエル人の歌手が曲にしている。

Ofra Haza - Love Song (Song of Songs 8:6-7)

あら、美人。
彼女の名はオフラ・ハザ。

1957年生まれで、1980年にイスラエルの最優秀女性シンガーに選ばれた。

残念ながら2000年にエイズの合併症で亡くなってしまったけどね。

アラビア語で歌うこともあって、アラブ圏でも人気だったんだ。

綺麗な声の人やな。

もっと長生きしてくれたら良かったんやけど……。

残念やわ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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