15.補遺

文字数 1,291文字

サムソンの死で士師たちの物語はひとまず終わり。

最後の士師サムエルについては別途『サムエル記』で語られる。

けれど『士師記』には補遺が付いて、もう少し話が続くんだ。

「補遺」は書き漏らしを後から補うという意味だね。

わたくし、ゲームやっててもサブクエストってあまり楽しめないのよね。

さっさと本筋を進めてしまいたくなるの。

まあ、軽く触れておくだけさ。

まず最初はミカエフという青年の話だ。

聖書では主に「ミカ」と省略形で語られる。

他人とは思えんな。

天使ちゃうから、うちとは直で関係あるわけちゃうんやろけど。

彼はあろうことか銀で偶像を作ってしまう。

しかし彼自身は神を誠実に崇拝していた。

だから神が彼に罰を下すことは無かった。

ルールがよう分かってへんかってんな。

姦淫しとるわけでもないし、そんなひどい目に遭わせんでもってことか。

しかしそこにダン族がやって来た。

彼らは敬虔な信者だから、偶像崇拝は許せない。

ミカから偶像を含む祭祀の道具を全て奪い去った。

『創世記』にて「ダンは自分の民を裁く」と言われたのでしょう?

まさにその通りの行いをしていますわね。

よく勉強しているね。

その部分は英語では「Dan shall achieve justice to Israel」

「ダンはイスラエルの民に正義をなす」とも訳されるところなんだ。

これが補遺の一つ目。

もう一つ補遺があって、それはベニヤミン族に関するものだ。

ベニヤミン言うたらあれやな。

『創世記』でヨセフが大事にしとった弟のことやろ。

側妻(そばめ)を連れたレビ人がベニヤミンのギブアに訪れ、老人の家に泊まった。

彼がくつろいでいると、町のならず者が家を取り囲み言った。

「お前の家に来た男を出せ。あの男とセッ○スがしたい」

老人は処女の娘と、レビ人の側妻(そばめ)を差し出した。

彼らは夜通し彼女に暴行を加え、朝になって解放した。

……。
滅ぼすしかないな。
わたくしにお任せください。
まるで『創世記』で滅ぼされたソドムのようだね。

違いは、女がいいようにされてしまったこと。

この側妻(そばめ)は主人の元に帰るも、そのまま死んでしまう。

レビ人は側妻(そばめ)の体を12の部分に切り分けた。

そしてイスラエルの全ての領域に送った。

イスラエルの子らはレビ人の話を聞き、ベニヤミン族を攻めることにした。

ベニヤミン族は多勢に無勢で民族滅亡の危機に陥る。

最終的にイスラエル全体で「滅亡させるのはよくない」となって和解した。

そして『士師記』は最後にこう締める。

「そのころ、イスラエルには王がなく、各々、自分の目によしとすることを行っていた」
まとめる者がおらんから、みんな好き勝手。

そんで世の中ぐちゃぐちゃになってるんやでってことかな。

それこそわたくしの好むところ。

混沌の世ですわね。

イスラエル最初の王はサウル。

最後の士師サムエルが彼を立てる。

なるほど。

王がおらんくて困っとるっちゅうのが伏線になるんやな。

そうかもしれないね。

ただ、この次には短いながら『ルツ記』がはさまれている。

『ルツ記』はヘブライ語短編物語の珠玉とされているんだ。

まずはそこから見てみよう。

その後に『サムエル記』が始まる。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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