9.最初の殉教者

文字数 1,113文字

執事ステファノはサンヘドリンに捕らえられた。

そこで祭司らに審問を受けたところ、ステファノは説教を始めたんだ。

ステファノは言った、

「兄弟、並びに父であるみなさん、お聞きください。

わたしたちの父アブラハムがハランに住む以前、まだメソポタミアにいたとき、

栄光の神が彼に現れ、『お前の土地とお前の親族を離れ、わたしが示す土地に行け』

と仰せになりました」。

逮捕された身で急に何を語り始めるのかしら。

アブラハムがいったい今の彼に何の関わりがあると?

アブラハムだけじゃない。

そこから始まり、イサク、ヤコブ、モーセについて話し始める。

ステファノの説教は『使徒言行録』の中で最長だ。

うーん。なんでそないに長い説教かましたんやろ。
結論は終わりごろに語られる。
頑なで心と耳に割礼を受けていない人たちよ、あなた方はいるも聖霊に逆らっています。

あなた方の先祖と同様です。

あなた方の先祖が迫害しなかった預言者が、一人でもいたでしょうか。

確かユダヤ人は異教徒を「無割礼」と言って蔑むことがありましたわね。

「割礼を受けていない」とは、最大級の侮辱ではないかしら。

長いこと喋ったけど、言いたいことは要するにこれやな。

「この頑固もんが!」

言われた方は当然怒る。

いや、ブチ切れたとでも言うべきかな。

よってたかって襲いかかり、ステファノに石をぶつけ始めた。

はあ?

言うて口喧嘩やろ。

石なんかぶつけたら死んでまうやないか。

彼らが石を投げつけている間、ステファノは、

「主イエス、わたしの霊をお受けください」と祈った。

そして、「主よ、この罪を彼らに負わせないでください」と叫んだ。

こう言って、彼は眠りに就いた。

死んでしまいましたわね。

しかしローマ支配下のユダヤ人には死刑の権利が無いのではなくて?

だからこそイエスを十字架刑にとピラトに願ったのでしょう。

これは明らかに不法行為でしてよ。

実際、確かにこれは不法行為だろう。

けれどイエスに比べるとステファノの影響力はとても小さい。

ローマ総督もそんなことまで気にしていられないのさ。

ステファノは信仰を抱いたまま死んだ。

彼はキリスト教における最初の殉教者とされている。

執事の役を負い、さあこれからという時でしたのにね。

あたら若い命を粗末にしてまで持つ、信仰などに価値などあるのかしら。

さて、どうかな。

少なくとも、残された人にとっては大きな意味を持ってそうだけどね。

ステファノの死後、教会に対しての大迫害が起こったという。

その中心人物が、後の使徒パウロ、ユダヤ名サウロだった。

敬虔な人たちはステファノを葬り、彼のために大いに嘆き悲しんだ。

ところが、サウロは教会を荒らし回り、家から家に押し入って、

男も女も引きずり出しては牢に送っていた。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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