5.ミカエルとサタン

エピソード文字数 1,004文字

また、天に大きな徴が現れた。

それは、太陽をまとった女で、月がその足の下にあり、

頭上には十二の星の冠を戴いていた。

女は身籠っており、子を産む苦しみと痛みのために泣き叫んでいた。

この「女」が何者かという点で、様々な解釈が見られる。

しかし最も強く主張されるのが、彼女こそ聖母マリアというものだ。

この女が聖母マリアならば、子はイエスということかしら。
そうなるね。

「この子は、神のもとに、その玉座に引き上げられた」と書かれている。

聖母マリア以外の解釈では、「教会」を表しているというのもある。

例えば『ガラテヤの人々への手紙』では、こんな比喩表現が書かれていた。

『ガラテヤの人々への手紙』第4章26節

だが、天のエルサレムは自由な身分の女で、これはわたしたちの母です。

なんとなく、女性即ち教会みたいな暗黙の了解があるんやな。

前に『ヨハネの第二の手紙』に出てた「選ばれた婦人」とかあったやん。

あれも「教会」の比喩表現とか言うてたな。

他の解釈として、イスラエルという国家の比喩だとか。

あと、天体の動きを表現しているとか。

色々あるけれど、やっぱり素直に読めば、聖母マリアがしっくり来ると思うよ。

もう一つの徴が天に現れた。

見よ、七つの頭と十本の角のある巨大な赤い竜であった。

この竜は「あの太古の蛇、サタンとも悪魔とも呼ばれたもの」とされている。

エデンの園でエバをそそのかした蛇のことだね。

それは、サマエル、あなたのことではなくって?
さて、どうかにゃ。
さて、天では戦いが起こった。

ミカエルとその使いたちとが、竜に戦いを挑んだのである。

竜とその使いたちも応戦したが、勝つことができず、もはや天には身の置き所もなかった。

こうして、巨大な竜は投げ落とされた。

『反逆天使を打ち破る聖ミカエル(San Michele sconfigge gli angeli ribelli)』

バロック後期のイタリア人画家、ルカ・ジョルダーノの作だ。
うちが大活躍しとる。

すまんな、サタニャエルくん。

いいってことさ。
さて、この竜についてだけど、これはローマ帝国を示すという解釈がある。

竜は女が生んだ子を食べようと待ち構えていた。

しかし大天使ミカエルによって打ち破られてしまう。

女がいて、竜がいる。

そして竜を退治するお姉さま。

まるで騎士物語のようですわね。

しかし竜を退治して話は終わらない。

その竜は自身の権威を別の存在に譲るのさ。

それがかの有名な黙示録の獣だよ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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