3.七つの怒りの権力

エピソード文字数 1,747文字

マリアは弟子たちの知らぬところでイエスと話をしていた。

ペトロはその内容を教えてほしいと言い、マリアはそれに応じた。

しかしその内容はペトロが思う以上に深遠なものだったんだ。

そら、ペトロが理解するにはちょっと難しい思われたんちゃうか?
なんと、身もふたもない。
正典の福音書だと、たとえ話で分かりやすく伝えようとしていた。

だけど、ここでの会話はもっと直接的で、かつ人の魂に関する話だ。

神秘主義的な雰囲気を持った内容だとも言える。

人の魂が、様々な権力を乗り越えて自由を得る。

その権力たちは都度、魂を引き留めようとする。

第一の権力についての記載を飛ばして第二の権力「欲望」を突き放す。

そして第三の権力「無知」を打ち負かす。

心の弱さを打ち破ってく物語かな?

漫画の設定とかに使えそうやで。

Chapter 8


18) 魂が第三の権力を打ち破りし時、七つの姿を持つ第四の権力と出会った。

19) 第一の姿は闇、第二の姿は欲望、第三の姿は無知、第四の姿は死の高揚、第五の姿は肉の王国、第六の姿は肉の愚かな知恵、第七の姿は怒りに満ちた知恵。これらが七つの怒りの権力である。


18) When the soul had overcome the third power, it went upwards and saw the fourth power, which took seven forms.

19) The first form is darkness, the second desire, the third ignorance, the fourth is the excitement of death, the fifth is the kingdom of the flesh, the sixth is the foolish wisdom of flesh, the seventh is the wrathful wisdom. These are the seven powers of wrath.


(the Gnostic Society Library)

イエスは語る。

自身の欲望は消え、無知は死に、自由となって安息を得ると。

イエスがマリアに語ったのはここまでだと言う。

今までの聖書に比べて、随分と抽象的ですわね。

いえ、正典もそれなりに抽象的ではありましたが。

解釈も難しそうやな。

これはもう解釈するとかそういう話とちゃいそうやわ。

この話を聞き終えて、使徒アンデレは「おかしい」と声をあげた。

アンデレの兄弟ペトロもそれに同調した。

イエスが自分たち使徒よりもマリアを気に入っていたのかと言うのさ。

これほどの神秘について、マリア以外誰も聴いていないとなればね。

男の嫉妬かしら。

見苦しい。

涙を流すマリアを庇って反論したのはマタイだった。

『マリアによる福音書』の中ではレビと呼ばれている。

Chapter 9


8) もし救世主が彼女を相応しいと認めたなら、彼女を拒むあなたは何者なのか。確かに救世主は彼女をとてもよくご存知だ。

9) それゆえに彼は彼女を我ら以上に愛されたのだ。


8) But if the Savior made her worthy, who are you indeed to reject her? Surely the Savior knows her very well.

9) That is why He loved her more than us.


(the Gnostic Society Library)

そしてマタイは自分たちはイエスの言葉に従い、努力し、宣教すべきだと言った。

使徒たちは宣教へと向かった、というところで福音書は終わりだ。

完全に残っていたわけではないにせよ、随分あっさりしていますのね。
グノーシス主義とか言うけど、あんまし違和感もあらへんかったな。

異端や言うて叩くほどのことも無い気がしたわ。

『マリアによる福音書』はグノーシス主義として読むべきではないという学者もいる。

二元論的ではあるけれど、反宇宙論までは展開されていない。

ともあれ、使徒を差し置いてマリアが中心に置かれる点で異色ではある。

おそらく、次に見る『ユダの福音書』こそ、より問題作だと言えるだろう。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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