7.最後の七つの災害

文字数 1,745文字

清く輝く亜麻布を身にまとい、胸に金の帯を締めた七人のみ使いが、

七つの災いを携えて神殿から出てきた。

そして、四つの生き物のうちの一つが、この七人のみ使いに、

代々限りなく生きておわれる神の怒りの満ちた七つの金の鉢を与えた。

「神の怒りを盛った七つの鉢の中身を地上に注げ」

神殿から大きな声が聞こえると、み使いたちは各々鉢を注いで回る。

第一のみ使いが出ていって、地上にその鉢の中身を注いだ。

すると、獣の刻印を持ち、その像を礼拝する人々に、ひどく悪性の腫れ物ができた。

偶像崇拝しとる人らを病気にして困らせてるんやな。

腫れ物って『出エジプト記』第六の災害と似たような感じやろか。

ラッパ吹きの時もそうだけど、災害は『出エジプト記』との類似が多々ある。

新しい世界へと脱出するようなイメージが重なるんじゃないかな。

『出エジプト記』第9章8節

主はモーセとアロンに仰せになった、

「かまどのすすを両手いっぱい取れ。

モーセはファラオの目の前で、それを天に向かってまき散らせ。

それはエジプト全土にわたって細かい塵となり、

エジプト全土の人間と動物について、膿の出る腫れ物となる」。

では、次の場面もそのような感じかしら。
第二の者が、海にその鉢の中身を注いだ。

すると、海は死人の血のようなものに変わった。

そして、海の生き物はことごとく死んだ。

第三の者が、その鉢の中身をもろもろの川と水源に注いだ。

すると、水は血に変わった。

これは『出エジプト記』第一の災害で、ナイル川が血にされていた場面を思わせるね。

もしくは『黙示録』第二のラッパで海の三分の一が血に変わったことも。

ラッパの時は三分の一で勘弁してくれてたのになあ。

最後の災害ではもう容赦せんってことか。

第四の者が、その鉢の中身を太陽に注いだ。

すると、太陽はその火で人々を焼くのを許された。

こうして人々は激しい熱で焼かれた。

第五の者が、その鉢の中身を獣の王座に注いだ。

すると、獣の王国は闇に覆われ、人々は苦しみのあまり舌を噛んだ。

太陽の火で人々を焼くというのはなかなかユニークだね。

気温を上昇させて人々を苦しめるようなことかな。

世界気象機関(WMO)で認定されている世界最高気温が56.7℃

その地はアメリカ、カリフォルニア中部でデス・ヴァレー(死の谷)と呼ばれております。

迷い込んだ金鉱採掘団の一人が脱出時に「さらば、死の谷よ!」と言ったのが由来とか。

太陽の熱は人に死を思わせるほどに辛いものですのね。

闇に覆われる災害は『出エジプト記』にもあったな。

第九の災害やで。

それにしても、舌を噛むほどの苦しみって何やろ。

ただの暗闇と言うより、これは地獄の苦しみを言い表しているんだと思う。

それを示すのは『マタイによる福音書』だ。

『マタイによる福音書』第8章11-12節

あなた方に言っておく。多くの人々が東からも西からも来て、天の国でアブラハム、イサク、

ヤコブとともに宴会の席に着く。しかし、み国の子らは外の闇に投げ出される。

そこには嘆きと歯ぎしりがある。

なんと賑やかな闇ですこと。

草どもの嘆きをBGMに美味しいケーキをいただきたいものですわね。

第六の者が、その鉢の中身を大河ユーフラテスに注いだ。

すると、その水は涸れて、日の出る方角から来る王たちの道を備えた。

そして「竜の口」「獣の口」「偽預言者の口」から汚れた霊が出てきた。

それらは「蛙のような」と形容される悪霊で、ハルマゲドンに仲間を集めた。

ハルマゲドンとは「メギドの山」という意味だ。

メギドの山は古戦場やな。

数々の戦いが繰り広げられた場所や。

第七の者が、鉢の中身を空中に注いだ。

すると、玉座から出た大きな声が神殿から聞こえてきて、

「事は成し遂げられた」と言った。

すると、稲妻と轟音と雷鳴が起こり、大地震も起こった。

これは人間が地上に現れて以来、かつてなかったほどの大地震であった。

地震によって大きな都や諸国の町々は崩壊状態になった。

島々は逃げ去り、山々は消え失せ、一タラントンの重さの雹が人々の上に降る。

その災害のため、人々は神を冒涜したと言う。

そりゃあこんな目に遭ってりゃ、文句だって言いたくなるさ。

1タラントンは古代ギリシアにおいておよそ26キログラム。

そんな重さの雹がぶつかったらどうなるかは、火を見るよりも明らかでしてよ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色