3.ハマンの策略

文字数 1,045文字

エステルが王妃となった後、モルデカイは一つの功績を挙げる。

それはペルシア王クセルクセスの命を救うほどのものだった。

モルデカイが王宮の門に座っていたとき、二人の宦官の陰謀を耳にした。

ビグタンとテレシュは、なんとクセルクセス王の暗殺を企んでいたのだ。

モルデカイはエステルを通じ、このことを王に知らせた。

16世紀フランスの画家、アントワン・キャノンの絵だよ。

宦官と言うにはいささか屈強過ぎる見た目だけどね。

四隅にベヘリットあるやん。
三浦建太郎もこの絵を見たのでしょうか?
……違うんじゃないかな。
それで、この二人はどうなりまして?
調べると事実だと判明したため死刑になったそうだよ。

これはモルデカイの功績として記録された。

その後、アガグ人ハメダタの子ハマンが宰相の座に着いた。

王宮の門にいる家来たちはみな、ハマンの前にひざまずいた。

アガグってどっかで聞いたことあるな……。

確か、イスラエルの初代国王サウルと戦ったアマレク王の名前やったような。

その通りだよ。

ハマンは、かつてイスラエル人に敗れた民族の子孫ということさ。

なかなかに因縁めいていますわね。
『エステル記』におけるハマンもやはり敵として現れるのさ。

ハマンは宰相の地位に上り詰めて権勢を振るった。

しかし、そのハマンにモルデカイは従わなかった。

王宮の門の前で家来たちがひざまずく中、ハマンだけはそうしなかったんだ。

王の命令であったにも関わらず、ね。

不遜やな。

やっぱアマレク人に頭下げるんは嫌やったんやろか。

そういう話も無くはない。

ただ、タルムード(Megillah 19a)によると、ハマンが偶像を身に付けていたとされる。

だからハマンに跪くことは偶像崇拝を犯す危機だったと言うわけだ。

細かいですわね。

そんなことを気にしていると、いらぬところで諍いを生みかねませんわ。

「七十人訳聖書」や「アラム語聖書(Targum Sheni)」ではまた別の解釈がある。

頭を下げるのは神のみであって、ハマンではないと言う。

その理屈やと王様にも頭下げられへんのちゃうか?

さすがに難儀やろ。

僕もそう思う。

だからここでは、嫌いなアマレク人が偶像まで身に付けてて腹立ったから……。

くらいの解釈で進めてしまおう。

なんと分かりやすいこと!
家来たちはモルデカイに「何故、王命に従わないのか」と毎日言った。

しかしモルデカイはいっこうに耳を傾けなかった。

ハマンは大いに憤り、王国全土に住むユダヤ人を滅ぼすことを謀った。

そして案の定、災いを招き寄せましたわね。

果たしてどうなることやら。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色