10.象殺しのエレアザル・アワラン

文字数 1,218文字

アンティオコス4世エピファネスは死んだ。

その後を継いだのがアンティオコス5世エウパトル。

聖書ではどっちも「アンティオコス」としか書かれてなくて迷いがち。

ユダ・マカバイは宰相リシアスを打ち倒した。

そしてアンティオコス4世エピファネスは病に倒れた。

それでもセレウコス朝シリアは強大な国だ。

エルサレム要塞にはまだシリアに従うべきと考えるユダヤ人たちがいた。

要塞内の者どもは、異邦人ともに加勢しようと努めた。

ある者は抜け出し、イスラエルの不敬な輩と合流した。

この者どもは王のもとに行って、機先を制するよう進言した。

ユダヤ人言うても一枚岩やない。

信仰を守って過酷な生活を選ぶより、大国の中での平穏を望む人もおる。

当たり前っちゃ当たり前やわな。

これを受けてアンティオコス5世エウパトルは軍を率いた。

聖書では歩兵10万、騎兵2万、そして象32頭を引き連れたという。

数字そのものは誇張だろうね。

ともあれ、数万の大軍を引き連れたことは間違いない。

象まで持ち出してくるとは、かなり本気で攻めかかってますわね。
しかも用いているのはアフリカ象よりも強力なインド象だ。

1頭ずつにインド人の御者が付いて、他に4人の兵が乗って戦った。

王はベトツルに陣を敷いて、幾日にもわたり攻撃した。

ユダはエルサレムを離れてベトザカリアに陣を敷いた。

王は夜明けに起き、軍を率いてベトザカリアに突進した。

地図を見ると分かるように、南部のベトツルからベトザカリアに進軍している。

聖書には直接書かれていないけれど、ベトツルは突破されたということだろうね。

エルサレムに篭ってるよりかは打って出る方を選んだんやな。

獅子身中の虫がおるかもしらんとこで戦うよりかはええ選択や。

それにユダ・マカバイは野戦慣れしとる。

救援の期待できへん篭城よりかは勝ちも見える。

ゲリラ戦やっとったから、いざとなれば散り散りに逃げるんも手やしな。

王は騎兵を軍の両側面に配置し、方陣の防御にあたらせた。

太陽の光が金と青銅の盾を照らすと、山々は輝き松明のように煌めいた。

大軍のどよめき、部隊の行進の足音、武器の触れ合う音。

それを聞いた人々はみな、震えおののいた。

輝かしき軍勢。

なんと美しい景色でしょう。

その光景だけで、大抵の人は戦意を失うだろうね。

しかしユダの軍勢は果敢に立ち向かっていった。

このベトザカリアの戦いで英雄となるのがユダの弟エレアザル。

またの名をアワランと言う。

まあ、痛そう。
エレアザル・アワランは最も大きな象を狙って下に潜り込んだ。

そして下から刺し殺した。

ちなみに絵は17世紀末、オランダの詩人ジャン・ルイケンに描かれたものだよ。

勇気ある行動やな。

せやけど、これは無事で済まんやろ。

そうだね。

エレアザルはそのまま倒れた象の下敷きになって死んでしまった。

このように奮戦したものの、王の軍勢に押され、ユダヤ人たちは退却を余儀なくされた。
戦争は数やて、ドズル・ザビも言うとったしな。

そうなんでもうまくはいかんか。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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