25.プライベート・ライアン

文字数 1,033文字

saving private ryan は日本語で「上等兵ライアンの救出」やな。

日本でやと『プライベート・ライアン』っちゅうタイトルで上映されとった。

何が「プライベート」やねんってなりそうなもんやけど。

private first classでアメリカ陸軍の上等兵、海兵隊の一等兵を意味するんや。

トム・ハンクス主演のこの映画の粗筋はこうだ。

第二次大戦中、上等兵ライアンには3人の兄弟がいたが全員戦死。

ライアンもまた行方不明になってしまった。

そのライアンを探して救出するまでの物語だ。

せやけど救出に行ったトム・ハンクス演じるミラー大尉は最後に死んでまうんや。

他にも部下が大勢死んどる。

一人を助けるために多くの犠牲を出す、やるせない話やで。

合理的に考えれば、これは無駄な行為かもしれない。

しかし犠牲者が増えるリスクを冒してでも弱い者を救う。

これは聖書における「迷える羊」の逸話がベースとなっているように見える。

アメリカの脚本家、リンダ・シーガーも著書でそのことに触れている。

『From Script to Screen: The Collaborative Art of Filmmaking』

He explores a modern Moses in Schindler's List, the shepherd going after the lamb in Saving Private Ryan, ...

(意訳)

彼(スピルバーグ)は『シンドラーのリスト』で現代のモーセを、『プライベート・ライアン』で「迷える羊」の物語を模索している……

それで、「迷える羊」の物語とはどのような?

前振りからして、一匹の羊のために何かリスクを冒すのかしら。

ある人が百匹の羊を飼っていて、そのうちの一匹が迷い出たとする。

その人は九十九匹の羊を山に残して、迷った一匹の羊を捜しに行かないだろうか。

もし見つけたなら、その人は迷わなかった九十九匹の羊よりも、

その一匹のことを喜ぶだろう。

これがいわゆる「迷える羊」の話だ。

これを人に喩えれば、すでに信仰を得た人々よりも、

迷い苦しむ人をキリストの家族に迎え入れることを喜ばしいと言う。

弱き者の傍に立つべきということを言っているんだ。

弱い人を決して見捨てへん。

それは時に非合理的に思えるかもしれへん。

せやけど、この理想を維持することが皆の結束を高めるんや。

このように、これらの小さな者が一人でも滅びることは、

天におられるあなた方の父のみ旨ではない。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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