1.アブラハムの宗教

エピソード文字数 1,217文字

ついに新約聖書の話。

あの救世主の話が始まるんやな。

救世主など、ただのペテン師でしてよ。

虚飾にまみれた言葉にいつまで振り回されるおつもりかしら。

そんな寂しいこと言いなや。

みんなの罪を背負ってくれるんやから、ええ人なんやろ。

まあ、いい人かどうかは追い追い確認しよう。

まずはそもそも「旧約」とか「新約」って何ってとこから。

確かに、今まで見て来た聖書が「旧約」とか言われてもなあ。

ユダヤ教の人らにとってはそこまでが正しい聖書なんやろ?

聖書に旧いも新しいもあらへんで。

そうだね。

まず「旧約聖書」とか「新約聖書」という言葉自体がキリスト教によるものだ。

ユダヤ教徒にとって聖書は聖書、ヘブライ語で「タナハ」

「タナハ」は「トーラー」「ネイビーム」「クトビーム」の三つを指す。

ではキリスト教徒たちが何を「新しい」と言っているか。

彼らにとってユダヤ教の何が「旧い」のか。

端的に言えば神との契約だ。

旧い契約を改めて、新しい契約を結ぶ。

契約の観点で言えば、現代の人にとっては新しい方が有効というわけだ。

うーん、せやったらユダヤ教はもうあかんっちゅうことか?

人様の宗教、勝手に終わらせるってどうなんやろ。

解釈の違いってやつさ。

後の方が正しいというわけでもない。

もしそうなら、キリスト教だってイスラム教に否定されるよ。

『コーラン』雄牛の章135

彼らは言う、「ユダヤ教徒かキリスト教徒になれ。そうなれば、おまえたちは正しい道に導かれるだろう」。言ってやれ、「いやいや、純正なる人アブラハムの宗教をとる。彼は多神教徒ではなかったぞ」

ムスリムにとってキリスト教徒は間違いなく多神教徒。

神は唯一無二であり、イエスを神に並び立たせるなどありえませんもの。

三位一体説など詭弁もはなはだしい。

アブラハムの宗教って何のことやろ。

いっちゃん最初の人やったらアダムのはずやのに。

ではここで『創世記』を確認してみようか。
『創世記』第12章3節

(主からアブラム(アブラハム)に向けた言葉)

わたしはお前を祝福する者を祝福し、お前を呪う者を呪う。

お前を通して、地上のすべての民族は祝福される。

アダムからアブラハムの父テラまで、信仰は閉鎖的なものだった。

そこにはノアも含まれる。

しかしアブラハム以降、神の祝福は他民族も含めて広まっていく。

広まらな「宗教」とは言えんからな。

そんでその最初がアブラハムっちゅうことか。

アブラハムを最初とする思想は『エレミヤ書』にも伺えるよ。
『エレミヤ書』第33章25-26節

主はこう仰せになる。

仮に、わたしが昼と夜と契約したのではなく、

わたしが天と地の配置を定めたのでないなら、

わたしはヤコブとわたしの僕ダビデの子孫を捨て、

アブラハム、イサク、ヤコブの子孫を治める者をそこから選ぶことはないだろう。

しかし、わたしは彼らの繁栄を回復させ、彼らを憐れむ。

こうした背景を踏まえて、『マタイによる福音書』は始まる。
アブラハムの子、ダビデの子であるイエス・キリストの系図。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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