4.第三の天

エピソード文字数 1,216文字

『コリントの人々への第二の手紙』第12章2節

わたしは、キリストと一致していた人のことを知っています。

この人は、十四年前――体ごとであったか、体を離れてのことであったか分かりません。

神がご存知です――第三の天にまで連れていかれました。

「キリストと一致していた人」とはパウロ自身のことだ。

パウロが体験した神秘的体験について語っている場面だね。

「第三の天」とは何ですの。

「第三」と言うからには、「第一」「第二」もあるのかしら。

天国については僕よりもミカちゃんの方が詳しいんじゃないかな。
全然分からへんわ。

すまんな。

まあ、近くに住んでる人ほど興味ないってこともあるしね。

多くの観光地は外から来る人向けのものだ。

ここでの伝統的解釈は「天」を三つに分けて考えるというものだ。

第一の天が「空」、第二の天が「宇宙」、そして第三の天が「神の座」

こんな風に見るもので、パウロは最も高い場所に行ったということだね。

なんとパウロがそのようなところまで。

随分と出世されましたこと。

パウロはその場所を「楽園」とも表現している。

そしてそこで「人間には語ることが許されていない言葉」を聞いたと言う。

「許されていない」なんて理解しているあたり、霊感的と言うか神秘的だね。

何にせよ、そんなとこまで行けたんやからパウロも誇らしいやろ。

なんせ、最も高い天なんやからな。

実は、神学者エゼルベルト・ウィリアム・ブリンガーの見解は異なる。

「第三の天」とは最上の天ではなく、七つの天国におけるものではないかと言う。

七つの天国?

先ほどの三分割とは異なる考え方ということ?

これはメソポタミア神話に起源を持つ考え方で、イスラム教にも繋がっている。

ユダヤの聖典タルムードでは以下のように分類されているんだ。

第1天ヴィロン(Vilon):『イザヤ書』第40章22節「天幕」

第2天ラキア(Raqiʿa):『創世記』第1章17節「天の大空」

第3天シェハキム(Sheḥaqim):『詩編』第78章23節「天の戸」

第4天ゼブル(Zebul):『イザヤ書』第63章15節「聖なる高殿」

第5天マオン(Maʿon):『申命記』第26章15節/『詩編』第42章9節「天の住まい」

第6天マコン(Maḵon):『列王記上』第7章30節/『申命記』第28章12節「倉である天」

第7天アラボト(ʿAraboṯ):「神の座」

なるほど。

これやと第七の天がいっちゃん上にあるんやな。

パウロは玄関先で挨拶したような感じか。

謙虚で良いのではないかしら。
天国を実際に見た人なんてそうはいない。

それを誇ってももちろん良いだろう。

だけどパウロは、自分自身については「弱さ」だけを誇ると言う。

思い上がりを戒めるべきという考えに基づくものだね。

キリストの力がわたしの内に宿るように、わたしは自分の弱さを誇ることにします。

迫害や行き詰まりがあっても、キリストのためならそれでよいと思っています。

わたしは、弱っている時こそ、強いからです。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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