5.言峰綺礼

エピソード文字数 1,120文字

主は我が魂を甦らせ、御名(みな)のために我を正道(せいどう)へと導かん。

たとえ死の谷を歩むとも、禍(わざわい)を恐るるまじ。

主が我と共にあるが故に、貴方の鞭と貴方の杖が私を慰める。

貴方は我が敵の前で宴を設け、我が頭(こうべ)に油を注ぐ。

杯は溢れ、我に恵みと慈しみを与えるだろう。

杯は溢れ、我に恵みと慈しみを与えるだろう。

(『Fate/Zero』言峰綺礼の台詞)

主は傷ついたこの身を生き返らせ、主の栄光を現すことができるよう、私を助けてくださいます。

たとえ、死の暗い谷間を通ることがあっても、恐れません。

主がすぐそばにいて、私の行く道をいつもお守りくださるからです。

主は私の敵の前で、私のためにすばらしい食卓を備え、大切な客としてもてなしてくださいます。

それは、あふれるほどの祝福です。

(『詩編』第23編 Japanese Living Bible (JLB))

ちょっと内容に違いがあるけれど、同じものだ。

『Fate/Zero』の方がより原文に近い。

『Fate/Zero』はうちも見たで。

奈須きのこの『Fate/Stay Night』の一世代前を描いた作品や。

『Fate/Zero』は『吸血殲鬼ヴェドゴニア』でも有名な虚淵玄が書いたんやな。


……そ、そこはオーソドックスに『魔法少女まどか☆マギカ』で有名、

と仰っていただいて構いませんのよ???

ビヨンデッタが珍しくうろたえている。
第23編は「主は私の牧者」という言葉で始まる。

こんな風に「主」を「牧者」とする表現は古代メソポタミアにも見られる。

たとえばかの有名なハンムラビ法典の締めの箇所にはこう書かれている。

我、神々にハンムラビと呼ばれし者。

我は幸福と繁栄をもたらす牧者なり。

まあ、それは良いとして。

言峰綺礼は、何故このような詩編をそらんじたのかしら。

言峰綺礼は神父さんやからな。

ついうっかり言葉にしてもうたんやろ。

麻婆豆腐大好きお茶目さんだからね。

ただ、詩編をそらんじたのは決戦の直前だ。

何か強い思いが彼にそうさせたんだろうさ。

ぶっちゃけると「杯は溢れ」ってところで「聖杯」をイメージさせただけだろうね。

Fateシリーズは聖杯をめぐっての争いを描く物語だから。

なんと身もふたもない。
「貴方の鞭と貴方の杖」

ここは直訳だと「棒と杖」で、棒は狼を追い払うため、杖は羊を導くために使われる。

「頭(こうべ)に油を注ぐ」

もてなしのために客人に香油を注ぐことがあったらしい。

油注がれし者は救世主を意味したりするけれど、ここでは祝福の象徴だと思う。

言峰綺礼は救世主っちゅうより、救われたい側やからな。

神に導かれなんだ辛さが詩編を口ずさませたんかもしれんなあ。

今回のお話……。

知らない人にはさっぱりでしてよ?

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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