8.大淫婦バビロン

文字数 1,100文字

16世紀に活躍したドイツの画家で、版画家でもあるハンス・ブルクマイアーの作だ。

この版画はマルティン・ルターが翻訳した新約聖書に載せられたものの一つさ。

デザインがあれやな。

女神転生シリーズに登場するマザー・ハーロットそのまんまや。

ちゅうか、こっちがオリジナルかもしれへんな。

その名は大淫婦バビロン。

とは言え、当然ながらかつてのバビロニア帝国を意味するわけではない。

宿敵でもあったその名を引用することで、悪辣さを強調しているんだと思うよ。

わたしは赤い獣に乗っている一人の女を見た。

その獣は数々の冒涜の名で覆われており、七つの頭と十本の角を持っていた。

女は紫と赤の衣をまとい、黄金と宝石と真珠で身を飾り、

一方の手には、憎むべきものと、自らの姦淫の汚れに満ちた金の杯を持っていた。

額には、秘められた意味をもつ名が書き記されていた。

それは、「淫婦の母、地上のあらゆる憎むべきものの母である大バビロン」というものであった。

それで?

この大バビロンもまた、何かしらの比喩表現なのでしょう?

大淫婦バビロンも獣と同様にローマ帝国を示すという説がある。

一般的にはその解釈の方がよく知られているだろう。

けれど僕個人はローマではなく、エルサレムだという説を推したい。

エルサレムがバビロンか……。

そう思う理由はどこにあるんや?

20世紀以降の学者たちが指摘していることだよ。

バビロンは「姦淫」つまり「背教」をもってその罪としている。

しかしローマ自体はそもそもヤハウェを祀る国家ではない。

異教徒ではあるけれど、「背教」にはならないんだ。

それは確かに。

端から信じていなければ、背を向けるも何もありませんものね。

そう言えば、他にもエルサレムを「娼婦」言う場面があったな。

そのへん関係してる気もするわ。

『イザヤ書』第1章21節

忠実だった町が、どうして娼婦に成り下がってしまったのか。

そこには公正が満ち、正義が宿っていたのに、今は人殺しばかりだ。

『エゼキエル書』第23章1-4節

主の言葉がわたしに下り、仰せになった、

「人の子よ、かつて二人の女性がいた。

ともに母を同じくする娘たちだが、彼女たちはエジプトで姦淫した。

若年の身でありながら姦淫した。

その地で彼女たちは乳房をつかまれ、処女の胸を愛撫された。

姉の名はオホラ、妹の名はオホリバといった。

やがて彼女たちはわたしのものとなり、息子や娘たちを産んだ。

その名オホラとはサマリア、オホリバとはエルサレムのことである。

もし大淫婦バビロンが過去の何かを表しているのなら。

ローマ帝国(獣)に乗っかるエルサレム(娼婦)というのがしっくり来ないかな?

獣も娼婦も何でもローマ帝国だと、まとまりが悪いからね。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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