20.ギリシア哲学

文字数 1,405文字

パウロはアテネの町が偶像で溢れているのを見て、心が憤りに燃えるのを感じた。

そこでエピクロス派やストア派の哲学者たちとも論争した。

「このおしゃべりはいったい何を言いたいのか」

「彼は異国の神々を伝えようとしているらしい」

哲学者たちはそのように言った。

エピクロスは紀元前300年頃の哲学者ですわね。

「快楽主義」という言葉で有名となりましたわ。

まあ、良くも悪くも……。

単語だけで聞けばどうしても勘違いされてしまう。

「快楽主義」は快楽を求めて奔放に生きる思想だと思われがちだ。

その実は非常に節制した生活によって、心的な快楽を求めるというもの。

時に禁欲主義よりも禁欲的な生活を行っていたらしい。

エピクロス派において哲学とは幸福追求のための活動とされていますわ。

19世紀イギリスの哲学者ジョン・スチュアート・ミルの功利主義にて脚光を浴びます。

「満足した豚であるより不満足な人間である方がよい」

愚か者の満足は賢い者の不満足に比べて、精神的な快楽で劣るというわけ。

そしてその思想はアメリカ合衆国の独立宣言冒頭に反映されていると言う。

「すべての人間は生まれながらにして平等であり」

「その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている」

さらにこの言葉は日本国憲法にも受け継がれている。
日本国憲法第13条

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

アメリカ独立宣言やと幸福追求の権利は神様にもろとるんやな。

日本国憲法やと、なんか知らんけど最初から持っとる感じするわ。

ともあれ、エピクロス派は幸福追求の快楽主義って覚えとけば良いかな。

幸福追求のための死の捉え方とか色々あるけれど、そこは割愛だ。

そんで次はストア派やな。

ストアさんとか言う哲学者がおったんか?

いえ、残念ながらそのような名前の哲学者はおりません……。
ストアというのは柱がずらりと並んだ廊下、柱廊のことだよ。

ここでは特にアテネのアゴラ内にあったストア・ポイキレ(彩色柱廊)を指す。

そこで哲学者ゼノンが講義したことで、彼の哲学はストア派と呼ばれるようになった。

画像はアテネで復元された「アッタロスの柱廊」だよ。

ストアは「感情を抑える」意味の「ストイック」の語源でもある。

ただし、ストア派は別に感情を抑えろといった話ではない。

理性によって、与えられた環境に応じて、調和のうちに生きるべしという話さ。

「人生の目標は自然との調和のうちに生きること」

エピクロス派が幸福追求型であるのに対し、ストア派は幸福を結果として見ております。

「幸福とは、人生がうまく運んでいる状態のことを言う」

なんやら難しい話やけれど。

そんな難しいことをあれこれする人らにパウロが教えを説いたんやな。

まあね。

けれど、すでに哲学という確固とした考えを持つ人を説得するのは困難だったようだ。

死者の復活のことを聞くと、ある者たちはあざ笑い、ある者たちは、

「そのことは、いずれまた聞こう」と言った。

そこで、パウロは、彼らの中から出ていった。

当然の結果ですわね。

特にストア派は自然との調和を目指した哲学ですもの。

死後の存在を主張しませんし、ましてや復活などありえません。

ストア派は長くローマ帝国で中心的な思想となる。

初期キリスト教にとっては最大のライバルだったと言えそうだ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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