7.イザヤの黙示録

文字数 1,199文字

見よ、主は、大地を裸にして荒廃に任せ、

地の面(おもて)を一変させて、その住民を散らされる。

『イザヤ書』第24章から第27章にかけてを「イザヤの黙示録」とも言う。

イスラエルの破壊と再生について記された箇所だ。


またむずい言葉出て来たな。

「黙示録」ってのは何のことや?

古代ギリシア語でアポカリサス(apokalypsis)

英語ではアポカリプス(apocalypse)と呼ぶ。

古代ギリシア語での意味は「覆いを取り除く」だ。

けれど「黙示」という言葉の意味は微妙に異なる。

中国語の「默示(mo shi)」は「暗示する」とか「ほのめかす」という意味になる。

それでは誤訳ではないかしら。

「黙示録」ではなく「公開録」「開示録」といった表現が適切ではなくて?

うーん。

せやけど、「黙示録」って言葉の方が雰囲気重くて好きやなあ。

アポカリプスにせよ黙示録にせよ、すでにそれ自体が意味を持っているからね。

アポカリプスをケンブリッジの辞書で見ると以下のように書いてある。

「大きな破壊や変革をもたらす非常に重要な出来事のこと」とね。

元の意味はさて置き、破壊と再生に関する預言はまさに「黙示録」なのさ。

(イスラエルの民が永遠の契約を破棄したため)

呪いが大地を食い尽くし、そこに住む者は、その罰を受ける。

地上に住む者は弱り、わずかな人しか残されない。

その日が来れば、主は罰を下される、

天上では、天上の軍勢に、

地上では、地上の王たちに。

天上の軍勢って、うちら天使の軍勢のことちゃうんか?

神様はうちらに対してもお怒りなんやろか。

ご安心くださいお姉さま。

神が見捨てたとて、わたくしがお姉さまのお側におりますわ。

ここで言う天上の軍勢は、ミカちゃんの天軍とは異なるよ。

具体的には空に浮かぶ星たち。

時に神の敵対者とも見られ、神々とも考えられた者たちのことを言うんだ。

なんや、そうなんか。

そんなら安心や。

(イザヤから主に向けて)

あなたは町を石ころの山に、防備ある町を瓦礫となさいました。

他国の者の要塞は町のさまを失い、永久に建て直されることはありません。

その町とは、どこのことかしら?
これまた諸説ありだよ。

16世紀フランスの神学者ジャン・カルヴァンは不特定の町と考えた。

17世紀オランダの法学者フーゴー・グローティウスはサマリアのことだと言った。

19世紀アメリカの神学者アルバート・バーネスによればバビロンのことらしい。

どこでも構いません。
何にせよ世界的な破壊が続く。

神は自身を信じる者たちは守りつつ、大地と海に罰を与える。

悪とされるものをことごとく焼き討ち、世界はゼロベースにされてしまう。

その日が来ると、大きな角笛が鳴り響き、

アッシリアの地に失われていた者、エジプトの地に散らされていた者が、

やって来てエルサレムの聖なる山で主を礼拝する。

腐りきった世の中をガラガラポンしたい気持ちはよう分かる。

せやけど、それはほんまに正しいことなんやろか……。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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