2.試練

エピソード文字数 1,022文字

ある日、一人の使いがヨブのもとにやって来て言った。

シェバ人が牛や雌ロバを奪い、多くの僕(しもべ)たちを殺した、と。

彼一人が逃れてきたということであった。

神様がサタンに好きにせえ言うた途端にこれや。

無茶苦茶しよるで。

シェバ人と言うのは要するに盗賊どもという意味でしてよ。

対抗できる兵力を用意しなかったヨブの不手際ですわね。

さらに一人の男が来て言った。

神の火、すなわち雷が落ちて羊と僕(しもべ)たちを焼き尽くしてしまった、と。

この男が話し終わらないうちにまた一人の男が来て言った。

カルデア人がらくだを奪い、僕(しもべ)たちを刃にかけて殺した、と。

不幸ってのは続けて起こるもんだね。
いや、そんなレベルちゃうやろ、これ。
さらに一人の男が来て言った。

息子や娘が食事をしていたところ大風が吹き、家が倒れて皆死んでしまった、と。

あまりの不幸の連続にヨブは立腹……しなかった。

なんと彼は地面にひれ伏して主の名を祝福したんだ。

自分は裸で生まれて、多くのものを主に与えられた。

それをただ返すだけだと言ってね。

これほどの不幸に遭いながら、愚痴ひとつこぼさなかった。

信心深いにもほどがある……。

模範的っちゃ模範的なんやろけど。

大抵の草どもは嘆き、喚き、呪うばかりですものね。

そういった連中に比べればヨブはましな方でしょう。

何にせよ、これで神様とサタンの勝負は決着やな。

ヨブは不幸になっても信仰を貫いた。

神様の勝ちやで。

ところがサタンはまだ納得していなかった。
サタンは主に言った。

「皮膚には皮膚を。人は命惜しさに何でも差し出す」

当初、神はサタンにヨブ自身には手を出すなと言った。

サタンもそのルールに従ったけれど、納得いかなかったんだろうね。

やはりヨブに生命の危機を与えてこその試練だと言うのさ。

「皮膚には皮膚を」ってどういう意味や?
当時のことわざらしいけれど、正確な意味は不明だよ。

おそらく「ギブアンドテイク」とか「しっぺ返し戦略」みたいなことじゃないかな。

財産と子供たちを失った者に追い討ちをかけるだなんて。

さすがサタン。

サタンにより、ヨブは足の裏から頭まで、悪性の腫れ物に苦しんだ。

妻は彼に「神を呪って死んだらよいでしょうに」と言った。

嫁さん病んどるやないか。
けっこう、ひどいこと言うよね。
しかし、これほどの苦しみを味わいながらも、ヨブは決して神を呪いはしなかった。

神から善いものを受けるのだから、悪いものも受けるべきだと言ってね。

なんとまあ。

見上げた精神ですこと。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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